「危ないときは対外債権国通貨」
健在だった円買いのセオリー
2020年の金融市場は、米国とイランのつば迫り合いという中東における地政学リスクから始まった。一触即発の状態から、とりあえずは両国が矛を収め、足もとで緊張は和らいでいる。中東地域の情勢は非常に不安定であり、しかも発生した場合の動揺も幅広い資産市場にわたって発生することがよく分かる一件だった。
イランによる米国・イラクの合同空軍基地への攻撃に関する一報が伝わった際は、原油や金といった商品価格が騰勢を強め、為替市場では円高、株式市場では全面安が進んだ。とりわけ円相場について言えば、対外債権構造変化などを背景に、かつてのような「リスクオフの円買い」が進みづらくなっているとの見方が大勢だが、「リスク回避ムードが強まった場合は円買い」というセオリーが健在であることが確認できた。「危ないときは対外債権国通貨」は理に適った動きである。
とりあえずは収まった中東リスクだが、今後突然「降って湧いた」ように材料が飛び出してくる恐れもある。それらが金融市場、とりわけ為替市場を通じて日本経済にいかなる影響をもたらすか、そして為替市場全体の流れにどのように影響するかは、有事に備えるための頭の体操として考えておくほうがいいだろう。本稿では、こうしたテーマについて議論を進めてみたい。
原油高の下での円高は
「不幸中の幸い」
地政学リスクを受けた円高・株安が日本経済にもたらす心理的な影響はもちろん好ましいものではないと思われるが、「原油価格が上昇する」という前提を踏まえれば、円安・株安よりはましと言える(図表1参照)。
今回のような地政学的リスクを背景として、原油価格が上昇している最中に円安へ進めば、株価下落で民間部門の心理が毀損しているところに、輸入物価経由の消費者物価指数(CPI)上昇も覆い被さることになる。資源輸入国である日本にとっては由々しき事態だ。経験則を踏まえれば、この種のコストプッシュ型の物価上昇は比較的迅速に財・サービスの価格に反映されやすい(そして容易には戻らない)。賃金の伸びに期待が持てない日本経済としては極力、避けたいシナリオであろう。