金正恩
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【ソウル】北朝鮮は2016年~17年に相次いでミサイルを発射したことで国際社会から大きな非難を浴び、一連の追加制裁を科される事態となった。しかし、その挑発行為のおかげで、米大統領との初の首脳会談という果実も手に入れることができた。

 北朝鮮が先週、明らかにした新たな対米政策は、挑発的な戦略が再び奏功すると同国が読んでいることをうかがわせる。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)Close委員長は、過去2年の外交路線が実を結ばなかったことで、対米関係を「ハードリセット(強制初期化)」しようとしているようだ。正恩氏はエリート幹部を前に行った7時間に及ぶ演説で、もはや核兵器や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験を自粛する必要はないと表明。長距離兵器の実験を再び断行する構えを示し、米国をけん制した。

 同時に、緊縮財政を改めて促しつつ、早期に制裁が緩和されるとの期待を抑え、米国との対立長期化に備えるよう強調。自国の安全保障を制裁緩和と引き換えにするようなことはしないとも主張した。

 専門家の間では、北朝鮮の方針転換について、核開発と経済発展の両方を同時に進める「並進」路線の復活を意図しているのではないかとの見方が広がっている。

 正恩氏は目下、核保有国としての正当性と経済発展という2つの夢を再び追う姿勢を見せており、ドナルド・トランプ米大統領との3度の首脳会談を実現した従来の作戦へと舞い戻っているようだ。

 専門家によると、北朝鮮の強硬姿勢への傾斜は、米国によるイラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官殺害を受けて中東情勢が緊迫するのに伴い、一段と勢いづいた可能性がある。イランと北朝鮮は、20年近く前にジョージ・W・ブッシュ元大統領が「悪の枢軸」と呼んだ3カ国のうちの2カ国で、核兵器拡散の取り組みを巡り、米国は両国に目を光らせてきた。

 だが、実際に核兵器を開発したのは北朝鮮だけだ。ウィルソン・センター(ワシントン)のアジアプログラム責任者、エイブラハム・デンマーク氏はこう述べる。「北朝鮮は、トランプ氏がイランを攻撃する一方で、正恩氏とは派手な首脳会談を行った点を指摘するかもしれない」とマーク氏。「核開発を進めることが得策だと受け止めるだろう」

 北朝鮮は米国との協議を進める中でも、核物質の製造を継続していたとみられている。だが、正恩氏が長距離実験を再開した場合、米国本土が確実に射程圏内に収まることを示すには、まだ多くのことを成し遂げる必要がある、と兵器専門家は話している。

 北朝鮮の核弾頭が大気圏再突入に耐えられるかは、まだ試されておらず、ICBMに複数の弾頭を搭載できる能力もまだ証明されていない。

「憂慮する科学者同盟」のグローバルセキュリティープログラム共同責任者、デービッド・ライト氏によると、北朝鮮がこうした確実な能力に達するには、数年単位、およそ10~15回の実験が必要となる見通しだ。

 だが、そのような精密な核技術を手にすることは、正恩氏にとっては二の次でしかなく、まずは米国を交渉のテーブルに引き戻すだけの技術の進展を望むだろう。シンクタンク「オープン・ニュークリア・ネットワーク」の副責任者、メリッサ・ハンハム氏はこう指摘する。

「北朝鮮にとっては、米国が戦争を始めない程度に危険であればいい」

(The Wall Street Journal/Timothy W. Martin and Dasl Yoon)