日本から逃亡してレバノンで記者会見を開いたゴーン氏に対して、森雅子法務大臣が放った一言が、国際社会で「日本の司法制度の欠点を表している」と物議を醸している。この一言で、日本vsゴーンの第1ラウンドは、「日本の惨敗」が決定的となった。(ノンフィクションライター 窪田順生)
森法相の「失言」に
日本の司法の本質が出ている
世界が注目した日本vsカルロス・ゴーン。その第1ラウンドは完全にこちらの「惨敗」のようだ。
メディアの注目がマネロン疑惑へ向かわぬよう、日本の司法制度をこれでもかとディスった“ゴーン劇場”。それを受けて、珍しく迅速にカウンターを打った日本政府だったが、森雅子法務大臣がドヤ顔で「ゴーン被告は司法の場で無罪を証明すべきだ」と口走ったことが、国際社会をドン引きさせてしまったのである。
逃亡を許した途端、大慌てでキャロル夫人を国際手配したことで、全世界に「へえ、やっぱ日本の捜査機関は好きな時に好きな罪状をつくれるんだ」と印象付けたことに続いて、ゴーン氏のジャパンバッシングにも一理あると思わせてしまう「大失言」といえよう。
実際、森法相が「無罪の主張と言うところを証明と間違えた」と訂正をしたことに対して、ゴーン氏の代理人がこんな皮肉たっぷりな声明を出している。
「有罪を証明するのは検察であり、無罪を証明するのは被告ではない。ただ、あなたの国の司法制度はこうした原則を無視しているのだから、あなたが間違えたのは理解できる」(毎日新聞1月11日)
つまり、ゴーン陣営が国際世論に対して仕掛けた「日本の司法制度はうさんくさい=ゴーン氏にかけられた疑いもうさんくさい」という印象操作に、まんまと日本側が放った「反論」も一役買ってしまっているのだ。
と聞くと、「ちょっとした言い間違いで日本を貶めやがって!」と怒りで我を忘れそうな方も多いかもしれないが、ゴーン氏の代理人の指摘はかなり本質をついている。
ほとんどの日本人は口に出さないが、捜査機関に逮捕された時点で「罪人」とみなす。そして、そのような人が無罪を主張しても、「だったら納得できる証拠を出してみろよ」くらい否定的に受け取る傾向があるのだ。
森法相も同様で、あの発言は言い間違えではない。もともと弁護士として立派な経歴をお持ちなので当然、「推定無罪の原則」も頭ではわかっている。しかし、世論を伺う政治家という職業を長く続けてきたせいで、大衆が抱くゴーン氏への怒りを忖度し、それをうっかり代弁してしまったのだ。
なぜそんなことが断言できるのかというと、我々が骨の髄まで「推定有罪の原則」が叩き込まれている証は、日本社会の中に山ほど転がっているからだ。