【ワシントン】ここ数週間の間に世界で起きた一連の出来事を見ると、トランプ政権が敵味方を問わず、米国の経済力を――関税や制裁などを通じて――争いに対する地政学上の武器として利用していることが分かる。
そうした戦略は多少の短期的な利益をもたらしてはいるが、長期的には世界に対する影響力を失う可能性があるなどのリスクも抱える。
トランプ政権は中国に対して、より多くの米国製品を買わせ、米国企業の扱いを改善するために関税を使った。イランに対しては核開発プログラムをめぐり制裁による圧力を強化。駐留米軍についてイラクと対立すると、同国政府がニューヨーク連邦準備銀行に保有する資金へのアクセスの制限を検討した。ロシアに対しては、同国産ガスをドイツに運ぶパイプライン建設プロジェクトに参加する企業を対象に制裁を科すと警告し、ドイツ政府をも苦しめている。
もちろん制裁と関税の活用は目新しいものではない。しかし冷戦後の米国はトランプ大統領が就任するまで、明確な敵に対しても、主要友好国との協力においても、そうした手段を慎重に利用する傾向にあった。旧ソビエト連邦の崩壊後、米国の経済力はたいてい、米国の自由市場を核とする価値観に沿った貿易システムに他国を引き入れるための「アメ」として使われていた。
米国がアメではなくムチを使うようになったのは、1990年代から2000年代にかけて自ら推進したグローバリゼーションの時代に、米国が他国のかもにされたとトランプ氏が考えていることが大きい。トランプ氏は世界の貿易システムが壊れているとみており、その修復やその他の目的追求のための手段として、米国の経済力を利用できるとトランプ氏は考えている。
トランプ大統領は15日、中国との「第1段階」の合意文書の署名式で「われわれは過去の不当な行為を正し、米国の労働者や農業従事者、家庭に経済上の正義と安全のある未来を実現している」と述べ、こうした合意が25年前にあるべきだったと発言した。
エコノミストは、大恐慌と第2次世界大戦前に関税合戦が起きたことを挙げ、危険が差し迫っていると警告している。だがこれまでのところ、関税による悪影響は一部で懸念されていたほど大きくはない。