安心感を持たせる

 メンバーの分野や国籍も違い、変化のスピードも速いチーミングの状況下で、自分の考えや専門知識の関連情報を躊躇なく提供することはけっして簡単ではない。

 他人の評価が気になる人もいれば、知っていることを出してしまうと自分の価値が下がるのではないかと心配する人もいる。知識のひけらかしと考え、消極的になる人もいる。自分の弱さを認めているように思うなら、新しい知識を受け入れることも難しいかもしれない。

 活発な意見交換は必ずしも自発的に起こるわけではない。それゆえリーダーは、率直な意見や反対意見を述べられるような環境をつくり、メンバーに意見交換を促さなければならない。こうした環境づくりの基本は、チーミングの拠り所となるような行動をモデルにすることだ。すなわち、次のような行動が挙げられる。

●思慮に富んだ質問をぶつける。
●いま話し合われているテーマや専門分野について知識がないことを認める。
●自分自身も失敗するかもしれないことを伝える。

 リーダーがこのように行動すれば、他のメンバーも安心してそうするようになる。

 チリ鉱山の救出活動で言えば、ソウガレットは安心感を持たせるため、マスコミ関係者を完全に閉め出した。そしてチーム内では、メンバーの職位にかかわらず質問してその意見に耳を傾け、救助方法に関する新しいアイデアが出れば、並々ならぬ関心を示した。

 ウォーター・キューブの場合、カーフレイが、奇抜に思えるアイデアも試す必要があることを徹底し、「安心して設計できる環境」を整えた。

 失敗を受け入れる

 異例の成功を遂げたチーミングであっても、その途上では、必ず失敗している。失敗から学ぶという原則をつくることで、失敗は、次のステップの足がかりとなる大切な情報となる。

 だれだって恥ずかしい思いはしたくない。失敗して自信を失いたくもない。チーミングのリーダーは、メンバー全員がこうした気持ちを克服できるよう責任を持たなければならない。

 〈RAZR〉のチームも失敗に直面した。毎日遅くまで働いたが、目標としていた期限に間に合わず、連休中に見込まれていた売上げを逸してしまったのだ。それでもモトローラの経営陣はチームを全面的にサポートし、〈RAZR〉は予定より数カ月遅れの発売にもかかわらず、当初の見込みを上回る台数を売り上げた。

 先に挙げたポリマー開発チームは、実験を一通り行うも何ら有益なデータを得られず、結局外部から専門家を複数招き入れることになった。しかし、新しい同僚にばかにされるのではないかと心配する者は1人もいなかった。

 チーミングはこのような状況でこそ必要となる。問題解決策の実行を担う集団が、必ずしも策を見出せるわけではないのだ。

 衝突を逆手に取る

 チーミングでは、文化や価値観が多様なうえ、優先課題もさまざまだ。たとえリーダーがあらゆる正しい策を講じていたとしても、プロジェクトの妨げとなるような対立はよく起こる。プロジェクトを前進させるため、参加者全員に次のことが求められる。これにより衝突をうまく利用できるのだ。

●自分の見解が、事実だけでなく個人的な価値観や偏見にどの程度影響されているかを考える。
●見解に至った道筋を説明する。
●お互いに相手の分析の筋道に関心を示す。

 ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のクリス・アージリスが、HBR1991年5月号に寄せた論文【注】で指摘している通り、対立や衝突から学ぶには、「自己弁護」(説明する、情報を伝える、教える)という本来の性向と、あまり自然には生まれてこない「問い尋ねる」(関心を示し、聞く側に徹する)という行動との間でバランスを取ることが必要である。

 リーダーの役に立つ鍛錬がある。反省の時間を取ることだ。「もっと違った見方はできないのか。何かを見落としているのでは」と自問したうえで、他のメンバーにも尋ねてみる。こうした内省は、たとえ期限が迫っていても、チーミングの成功に欠かせない。

 私が行った調査やコンサルティングからわかったのは、内省のために時間をかけると、対立をそのままにしておく場合よりも時間の節約になるということである。

 対立は失敗のように感じてしまう。仲間の目を見て話せずイライラすることもあるだろう。しかし、そもそも視点の違いこそがチームワークの重要な根拠であり、違いをうまく解消できれば、新しいビジネスチャンスも生まれる。水泳競技場の設計について意見が分かれても、中国とオーストラリアのメンバーはたもとを分かつことなく、最先端の構想を打ち出し、ともに胸を躍らせた。

 仮にいずれか一方の案をそのまま採用していたら、受注競争に勝てたのか。それは知るよしのないことだが、新しく共同で生まれた解決策であるウォーター・キューブは、素晴らしいものであった。プロジェクト・リーダーがこの成果を引き出したのだが、それは、中国文化にも欧米文化にも造詣の深い最高の専門家たちをメンバーに呼び入れ、それぞれの会社が言語や規範、慣行、期待の違いを克服できるよう、時間を費やしたからである。

【注】
Chris Argyris, "Teaching Smart People How to Learn," HBR, May 1991.(邦訳「優秀なプロフェッショナルの学習を妨げる『防衛的思考』」DHB1991年9月号)