マスクを着用する中国人Photo:Stringer/gettyimages

中国の爆食需要を
押し下げたSARS

 中国で発生した新型肺炎の影響が拡大している。これを受けて多くの景気循環系商品の価格が下落しており、銅をはじめとする非鉄金属や、原油などに強い下押し圧力が掛かる展開が続いている。2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)の症例と比較すると、今回の感染拡大は景気に深刻な影響を与える可能性がある。

 2002年11月にSARSの初症例が公表されて以降、非鉄金属市場は比較的敏感に反応し、水準を切り下げる動きを強めた。

 下図の通り、SARSの症例報告があったタイミングから銅価格は前年比上昇率を切り下げていることがわかる。

 この時、中国の精錬銅の消費シェアは20.1%(前年18.2%)と、すでに世界需要の5分の1を占めており、中国の消費動向が銅をはじめとする非鉄金属セクターの需給バランスに与える影響が大きかったことを示唆している。なお、この時点で米国の消費シェアは15.0%(同15.7%)であり、非鉄金属市場への影響力は低下し始めていた。

 そして、2003年7月のSARS終息宣言を受けて、銅価格は急速に水準を切り上げることになる。

 中国は1994年に経済が加速度的に成長する「人口ボーナス期」に入っており、2000年代には需要の増加ペースは加速、供給が間に合わなくなったことが銅価格の上昇につながった。銅は近代化のために必須の金属である。だが、銅鉱山の開発から生産開始までは早くても10年程度を要するため、海外から積極的に銅を求めたのだ。

 いずれにせよ、SARS発生時、中国は銅の需要が爆発的に増加する局面にあり、供給も十分でなかった。それにもかかわらず、SARSの影響はそれを上回り、銅価格を押し下げた。パンデミックの経済活動に与える影響は、これほどに大きいといえるだろう。