たまには年齢を忘れてみよう

 そんなコンセプトを設定してみたところ、心がグッと軽くなった。

 そうだ、僕はまだ若くて時間もたっぷりある。やっと32歳になったところだ。失敗しても大丈夫。そうやって、勇気を出してこのエッセイに取り掛かった。

「エッセイを書くだけなのに、どれだけ勇気が必要なんだよ!」と言われそうだが、僕の年になれば、こんなことにだってものすごく勇気が必要なのだ。

 やるべき理由は一つなのに、やってはいけない理由がこれほどまでに頭の中を埋め尽くすから。

 僕らの魂は、老いていく肉体に閉じ込められている。魂がいくら自由だとしても、老いからは完全に自由になれない。

 だから、たまには年を忘れてみればいい。特に、やりたいことがあるときにこそ。

 とはいえ、年を取ると良いこともある。たとえば、プレイリストのアーティストが一つ増えるとか。誰の曲だとは言わないが……。

 ソン・シギョンさん、いつの日かぜひ酒を酌み交わしましょう。あなたの声に酔いしれたいです。

(本原稿は、ハ・ワン著、岡崎暢子訳『あやうく一生懸命生きるところだった』からの抜粋です)

ハ・ワン
イラストレーター、作家。1ウォンでも多く稼ぎたいと、会社勤めとイラストレーターのダブルワークに奔走していたある日、「こんなに一生懸命生きているのに、自分の人生はなんでこうも冴えないんだ」と、やりきれない気持ちが限界に達し、40歳を目前にして何のプランもないまま会社を辞める。フリーのイラストレーターとなったが、仕事のオファーはなく、さらには絵を描くこと自体それほど好きでもないという決定的な事実に気づく。以降、ごろごろしてはビールを飲むことだけが日課になった。特技は、何かと言い訳をつけて仕事を断ること、貯金の食い潰し、昼ビール堪能など。書籍へのイラスト提供や、自作の絵本も1冊あるが、詳細は公表していない。自身初のエッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』が韓国で25万部のベストセラーに。