デメオ新CEOPhoto:Reuters

――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

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 フランスの自動車最大手ルノーに新しく就任するトップには、その厳しい職務においてひとつ大きな優位性がある。今後の利益に警鐘が鳴らされ、カルロス・ゴーン前会長の勾留と逃亡を巡るメディアの大騒ぎが起きた後では、投資家の期待値が低いということだ。ただ、まだ十分な低さではないかもしれないが。

 ルノーは28日、ルカ・デメオ氏を7月に新最高経営責任者(CEO)に迎えると発表した。業界では同氏起用の臆測が広がっていた。ゴーン前会長の側近だったティエリー・ボロレ前CEOは10月、日産との関係が悪化した後に解任された。日産とルノーの長年の提携関係は問題を抱えている。

 ボロレ氏の解任で暫定CEOを努めてきたクロチルド・デルボス前最高財務責任者(CFO)は副CEOとなる。デルボス氏はボロレ氏解任から程なく、2019年通期の成長および利益率予想を引き下げた。この見通し修正でルノー株は11%急落した。

 イタリア生まれのデメオ氏の前職は欧州自動車メーカー、セアトのCEOだ。同社はもともとスペイン政府系で、現在はフォルクスワーゲン(VW)傘下にある。デメオ氏がCEOに就任した15年以降、セアトの財務状況は大幅に改善した。それまで4年間にわたり赤字の弱小メーカーだったが、19年の3四半期で営業利益は2億4800万ユーロ、利益率は2.8%を達成した。

 元マーケティング幹部のデメオ氏の注力でブランド力も向上してきた。同氏は販売価格と収益性を改善するうえで、ブランド力向上は不可欠とみなしていた。セアトは小型で安っぽい車というイメージが強かった。デメオ氏はブランドのポジショニングを変え、VWやアウディなど技術に重点を置くグループ内の他ブランドに対し、親しみやすくカラフルなラテン車という位置付けを目指した。

 ルノーもマーケティングの魔法を使うことができるかもしれない。同社は以前からフランスの自動車ブランドではプジョーやシトロエンを下回る位置づけだった。ただし、マクロ経済的な背景はかなり変化している。

 デメオ氏がアセトを率いた間、スペインやユーロ圏全体の景気回復が追い風となった。現在は、世界の自動車販売は高水準ながら減少気味だ。

 ルノーの復活へ向け、デメオ氏は販売力より事業再編に頼らざるを得ないかもしれない。

 労働組合が幅をきかせるフランスでは、そうした取り組みは米ゼネラル・モーターズ(GM)より一段と激しい対立を引き起こす恐れがある。エマニュエル・マクロン大統領の弱点を踏まえれば、安定大株主のフランス政府が足をひっぱる可能性もある。マクロン氏の年金改革に抗議して行われたフランス交通機関の過去最長のストライキは、先週ようやく下火になった。

 シティグループのアナリスト、アンガス・トゥイーディー氏が指摘するように、ルノーは競合他社より垂直統合型の性質が強い組織で、部品大手や自社のディーラーを多数保有している。このため景気悪化時にはとりわけ影響を被りやすい。トゥイーディー氏は先週のリポートで、ルノーは株式発行もしくは日産株の売却で追加資金を調達する必要があるとの見方を示した。

 ルノー株が極めて割安な水準に落ち込んでいるように見受けられる中、それはかなり厳しい。保有する日産株の価値を除いた時価総額はわずか21億ドルで、2019年の予想純利益とほぼ同水準だ。

 過去に照らせば、バリュエーションは一段と悪化する恐れがある。世界的な金融危機やユーロ圏危機に見舞われた2009年から12年の大半において、日産株を除いたルノーの時価総額はマイナスだった。

 デメオ氏はルノーにふさわしいように見える。ましてや、経営のハンドルを握る手が変われば、日産に対する適切なメッセージとなる。新CEOはゴーン前会長とのしがらみがない、というわけだ。だが投資家は舞い上がりすぎない方がいい。復活計画が奏功するまでには長い時間がかかるだろう。

(The Wall Street Journal/Stephen Wilmot)