「一億総活躍」のために
働き方改革が必要だった

小室 一億総活躍から、どのように働き方改革に展開したのですか。

加藤勝信(かとう・かつのぶ)
厚生労働大臣。1955年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒。1979年年大蔵省入省。衆院議員秘書を経て、2003年衆議院議員初当選。15年国務大臣(一億総活躍担当、女性活躍担当、再チャレンジ担当、拉致問題担当、国土強靭化担当)、内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画)、17年厚生労働大臣、18年自民党総務会長を歴任。令和元年から現職に再就任

加藤 一億総活躍を実現するにあたって、働き方改革は重要な要素であり、最大の課題は長時間労働をどう是正していくかでした。長時間労働の職場では、多様な人材が働き続けることができないからです。

 加えて、いわゆる「同一労働同一賃金」についても議論の対象となっていました。産業競争力会議の民間議員を務めていた小室さんにも、長時間労働の是正については何度も発言いただきましたね。そういった中で安倍総理自身が実現に前向きになったことが、働き方改革の法制化につながっていったという経緯です。

小室 2019年春、働き方改革関連法がついに施行されました。大企業における時間外労働の上限規制などが行われ、2020年4月からは大企業における同一労働同一賃金の導入、中小企業への時間外労働上限規制もスタートします。

加藤 国会は法案が成立すると一段落となりますが、実際にはそれを施行するにあたって、具体的な取り組み内容を皆さんに理解していただくことが重要です。日本商工会議所の調査によれば、時間外労働の上限規制に「対応済み・対応の目途がついている」という企業は2018年の45.9%から19年には63.1%まで増えるなど、中小企業の皆さんの認知度も上がってきています。

小室 今や多くのCMで働き方改革を扱うなど、あらゆる商品・ビジネスが働き方改革を切り口に語られるようになっています。

加藤 厚労省としても、さまざまな使用者団体に要請したり、労働者団体と連携を図ったりしながら、働き方改革の機運醸成に取り組んでいるところです。

 2016年から18年までの間に、超過労働時間60時間以上の雇用者の割合は7.7%から6.9%へ低下しています。皆さんが本当に前向きな気持ちで力を発揮できる環境づくりが、一番重要であると考えています。

小室 振り返ってみると、2016年9月に働き方改革実現会議(実現会議)が始まったときは、本当に前途多難という感じでした。労使が同じテーブルで労働時間について話し合う会議をハンドリングしていくのは、非常に難しいお役目だったかと思います。

加藤 経営者側の皆さんにも、長時間労働を是正する必要性についての基本認識はあったと思います。ただ、具体的な改善策に落とし込む過程ではいろいろなご意見があり、そこに調整の難しさがありました。

 同一労働同一賃金については、当時の国会で「日本は職務給ではなくて職能給だから難しい」という答弁が繰り返されていましたが、本当にそうなのだろうかと。専門家の方々にヨーロッパの実態も丹念に調べていただいた結果、ヨーロッパでも労働の質や勤続年数などの違いも考慮する中で、同一労働同一賃金を実現していることがわかってきました。そうであれば、日本でも取り込む余地はあるだろうということで、皆さんのご理解を得てきました。

時間外労働への上限規制導入の
裏側で起こっていたこと

小室 さらっとおっしゃいますが、それまで「わが国では無理」とされてきたことをひっくり返すというのは、本当に大変だったと思います。

 さらに時間外労働の件に関しては、上限の時間を何時間にするかが最大の山場であったかと思います。どのように調整を進めていかれたのでしょうか。

加藤 「さすがに過労死ラインを超えてはダメだよね」というところから、議論をさせていただきました。大災害や交通系の仕事をしている企業で、万が一事故が起きた場合などは例外となるものの、上限を設けるべきということについては、最終的に納得していただけました。

小室 2018年1月の「働き方改革実現会議」では、安倍総理から「このまま労使が合意できなければ、ここまでの議論が白紙になることもあり得る」という発言もありましたね。それくらい緊迫したギリギリの中で、議論がまとめ上げられましたね。

 経済界では「働く時間を短くすれば業績が下がる」というロジックが長らく主張されてきました。しかし、法改正が行われた現在では、社会全体が大きく様変わりしました。この現状をどのようにご覧になりますか。

加藤 正規で働くといっても、「9時から5時までなら働くことができるけれど、9時から22時は無理」という方がいらっしゃるわけです。

小室 まさに、私の周りもそういった方ばかりです。