江西省
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――筆者のマイケル・オースリン氏は米スタンフォード大学フーバー研究所のリサーチフェロー

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 1911年10月、中国の武漢で政治的ウイルス感染が起きた。同国の鉄道を外国が支配していることに抗議する革命勢力が軍の駐屯地を急襲し、清(しん)国軍を容易に撃破、清王朝の弱体化を印象付けた。「武昌蜂起」として知られるこの政治的ウイルスは、急速に拡散した。3カ月後、この中国の革命は満州の支配者を倒し、中華民国誕生の前触れとなった。今日の武漢は新型コロナウイルス流行の中心地となっており、このウイルスが中華人民共和国に及ぼす影響は、まさに革命勢力と同様かもしれない。

 1911年に武漢でウイルス感染が起きるまで、清は400年にわたって中国を支配してきた。何十年にもわたって内戦に悩まされ、日本との戦争に敗れ、植民地主義にむしばまれてはいたものの、清は依然強大であり打倒されることはないと思われていた。しかし、何週間かのうちに、清朝の最後の皇帝となった溥儀は退位させられた。現在、新型コロナウイルスが中国政府を崩壊させると予想している者はだれもいない。しかし、ウイルスの拡散は、共産党の権力基盤の弱点を明らかにした。今回の事態は、中国の国際的イメージを根本から変えるかもしれない。

 新型コロナウイルスが拡散するスピードは驚異的だった。追い詰められた中国政府は、患者を隔離するため武漢を含む主要都市を封鎖した。同ウイルスによる中国本土での死者数は、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)による死者数を既に上回っている。今回の流行で当局がとった対応にはソーシャルメディア上で不満の声が上がり、世界のマスコミの大見出しになっている。ウイルスの拡散を警告しようとして当局の脅しを受けた医師の李文亮氏が死亡したことは、多くの人々の怒りを招いた。彼らは、一党が支配する国家では市民の健康よりも社会秩序維持が重視されると考えており、今回の事態がそれを証明したと受け止めている。

 こうした全ての事態が中国の指導者、習近平国家主席を脅かしている。2012年からの彼の統治は、彼の能力を崇拝させることに重点を置いてきた。彼の野心的な経済・外交政策は、世界における米国のリーダーシップに疑問を投げかけた。一方で中国政府は、影響力強化に向けた執拗(しつよう)な取り組みを行い、世界で同国のマイナスイメージを払拭(ふっしょく)しようとしてきた。