それから30分後、総理執務室で内閣総理大臣能田雄介の緊急放送が行なわれた。

 総理は心もち緊張した面持ちでテレビカメラと向かい合っていた。この放送は、NHKを含めすべての民報、ラジオ、インターネットにも流される。

 執務机の横のテーブルには首都模型が置かれている。

 やがて総理は話し始めた。

「私は今ここで、日本国民にとって重要、かつ大きな決断を強いる報告をいたします」

 総理はコップの水を飲み、大きく息を吸った。

「現在、我が日本は戦後最大の危機に直面していると言えるかもしれません。東日本大震災、そして原発事故はまだ国民の間に暗い影を落としていることは間違いありません。そして、私たちの首都東京においても近い将来、マグニチュード8.4程度の首都直下型地震が発生すると警告されています。そのため、それらを懸念する国内外の格付け会社、投資機関において、我が国の経済見通しに対する見直しが行われています。その結果は厳しく、すでに為替、株価に影響が出ています。このままでは影響はさらに拡大し、日本経済は壊滅的な打撃を受けることとなります。同時に政府、また民間の調査によりましても、日本国民の意識も大きく低下しています。かつてのような自信も誇りも大きく低下していると言わざるを得ません」

 総理はテレビカメラを見つめて軽く息を吸った。そして続けた。

「こうした我が国に蔓延する衰退した暗い空気を一新するために、日本では過去に平城遷都、平安遷都が行なわれ、以後、政治の中心は鎌倉、室町、大阪、江戸、そして現在の東京へと移り変わって来ました」

 総理は再び水を飲んだ。テレビスタッフたちも、ただ総理の映像を撮っているだけでなく耳を傾けているのが伝わってくる。

「このたび、政府は首都移転を計画しております。この移転計画は思いつきや、その場しのぎの奇策などでは断じてありません。政府は長きにわたりその可能性、問題点、費用、そして国民の心理的問題など総合的に模索してきました。詳細は国土交通省、首都移転チームの村津真一郎参事官に話してもらいます」

 総理は村津とテーブル上の新首都模型に目をやった。

 村津はその模型を示しながら、新しい首都の目的と意義について話した。しかし、新首都の場所についてはやはり触れることはなかった。

 横では、総理が微動だにせずに立っている。

(つづく)

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