はいた人のストーリーが
お客をひきつける

スタッフの綿吉杏さん。参加者がはいたデニムを回収する際、個々のストーリーをていねいに聞き取ってお客さんに伝えている

 なぜ、こんなユニークな活動を始めたのだろうか。そこには尾道の歴史が大きく関わっている。

 尾道のある備後地方(広島県東部)は、あまり知られていないが国内でも有数のデニム製造が盛んな地域である。古くから良質の綿を栽培しており、それを使った備後絣(かすり)が伝統産業として地域を潤してきた。しかし、時代とともに絣の需要が減少する中、それまでに培われた染色技術などを生かし、世界的に有名なブランドにも生地を提供するようになっていく。そして、ハイクオリティなデニムの産地となったのである。

「日本のデニムの良さを知ってもらいたい。地域の伝統産業を新たな形で発信していきたいと願い、このプロジェクトを始めました。デニムは他の服と違って、使い込んだ味わいが価値になっていきます。スタッフは、デニムを回収してまわる際、はいた方から様々なエピソードをお聞きします。どんな作業なのか、どれくらいの頻度ではいているのか…、そして接客の際にはいた方のストーリーを細かくお客様にお伝えしていきます。ですから興味を持ってくださる方が多いのです」

 価格は、2万6800円から4万8000円まで(税抜)。色落ち感、ダメージ、風合いなどを確認し、7段階に分類して値付けをしていく。タグには、はいた人の職業が明記されており、一目で分かるようになっている。

 ちなみに、デニムのルーツは作業着。アメリカの炭坑労働者がはいたのが始まりとされている。尾道デニムもこの歴史を受け継ぎ、「労働の証」として全国に名を広めている。

 尾道デニムプロジェクトは、人気が高まってきたにもかかわらず、他の町には出店していない。ネット販売も行ってない。それは「ぜひとも尾道を訪れてほしい」、そんな願いからである。

 一方、尾道の市民にも変化が表れている。

「製造者、はいたボランティアさん、購入したお客さんが集まるイベントを定期的に開催しています。それまで接点のなかった人たちが、デニムによってつながり、交流の輪が生まれているんです。自分が購入したデニムをはいていた方と対面して、感激する方もいらっしゃいます。そういう場面に立ち会えるのは、私たちスタッフにとっても嬉しい瞬間です」