そんなタケシさんの頑張りに逆行するかのように、妻は一歩も外へ出ようとはしませんでした。それどころか、タケシさんと話をすることも徐々に拒否するようになったのです。当時のタケシさんは「妻が心配だ。早く元気になってほしい」という思いが強く、妻に対しても「自分で治る努力をしてほしい」と感じていました。しかし、その気持ちを妻に話せば話すほど、彼女は心を閉ざすようになったのです。

 いつしか、「今日の気分はどう?」と聞いても、何も返事が返ってこなくなり、ついには会話も途絶えてしまう状態に。タケシさんは妻のことを思ってあれこれ心配をしているはずなのに、なぜ相手に伝わらなかったのでしょうか?

「妻への心配」と見せかけて「自分の焦り」だった!?

 その頃から、妻とのコミュニケーションについて考えてみるために、タケシさんは「アサーティブ」の講座に参加し、自分の優しい気持ちを伝える練習や妻を勇気づける演習ばかりしていました。それでもなかなか状況が変わらないことに困り果てていたタケシさんに、私はこうアドバイスしたのです。

「タケシさん、それは自分の気持ちを伝えるというよりも、自分の不安を解消したくて奥さんを変えようとしているように見えるよ。自分の不安を解消したいことが伝えたい理由だとしたら、奥さんの心にはたぶん、届かないと思うな。あなたの本当の気持ちは『心配』じゃなくて、『不安』で焦っているんじゃないかしら」

 このアドバイスを反芻していくうちに、タケシさんは自分の心の中が少しずつわかってきたといいます。

「自分は焦っていたし不安だった。妻がこのままではダメになる。そうなると、『妻を助けられなかった』という無力な自分に向き合わなければならなくなる…自分はこんなに必死にサポートをしているのに、なぜ妻は変わろうとしないのだろうか。妻だって、もっと自分から治る努力をすべきではないか。妻は変わるべきで、変わろうとしない妻が間違っている。そう、思っていました」

 つまり、妻に変わってほしかったのは、妻を大切にしているからではなくて、自分の気持ちを優先していたから。知らずしらずのうちに、妻に対して上から目線になっていた自分がに気づいたとき、タケシさんは自分が恥ずかしく、妻に対して本当に申し訳なく思ったそうです。