日本には約3万3000カ所の「踏切」があるといわれており、ダイヤの乱れや開かずの踏切化によって、仕事に遅刻してしまった経験がある人も少なくないだろう。最悪のケースでは、遮断機の警報が鳴っているにもかかわらず、急いで踏切を渡ろうとして、電車と衝突してしまう事故も起きている。そのため近年は踏切廃止論を支持する声も上がっているが、なかなか進んでいないようだ。その理由を『私鉄特急の謎 思わず乗ってみたくなる「名・珍列車」大全』(イースト・プレス)の著者で、踏切事情に詳しいフリーランスライターの小川裕夫氏に聞いた。(清談社 岡田光雄)

なくならない踏切事故
せかされて犠牲になった人も

踏切踏切をなくすためには線路の高架化がもっとも有効と言われているが、問題となるのが沿線住民からの反対である Photo:PIXTA

 まずは、一口に踏切といっても種類はさまざまあり、大別すると遮断機が付いているタイプと付いていないタイプに分かれる。本稿では遮断機が付いていて、それが常時稼働しているタイプの踏切で主に話を進めていくことにする。

 多忙なサラリーマンをはじめ、人間は急いでいるときに周りが見えなくなるものだ。それによって、自分だけではなく他人の命を奪ってしまうこともある。

「よくあるのが、後続車からクラクションでせかされて、無理に踏切の中に入ってしまうこと。前走車が踏切を出たところでつかえていて、自分の車が踏切内に閉じ込められてしまい、電車が来てしまうことは多いんです」(小川氏、以下同)

 2005年に起きた東武伊勢崎線竹ノ塚駅に隣接する「開かずの踏切」での事故もその典型例だろう。

「ここは開かずの踏切として地元では知られており、ある日ついに歩行者たちが怒りを爆発させました。怒りの矛先は踏切の警手(事故防止に当たる鉄道職員)に向けられ、恐怖に駆られた警手は列車通過までにはまだ余裕があると判断し、開けてしまったのです。その結果、歩行者が次々と踏切を渡る中、渡っても平気だと勘違いしたおばあさんが、ひかれて亡くなりました。ちなみにこの亡くなった方は、警手に『開けろ!』と怒鳴った人とは別人です」

 ここ最近も相変わらず踏切事故は起きている。2019年9月、横浜市神奈川区の京急線の踏切で快速電車と大型トラックが衝突し、ドライバーが死亡。同年11月には東京都府中市の京王線東府中駅近くの踏切で、高齢男性が列車にはねられ犠牲になっている。