幾つもの美術展の監修を務め、講演会は満席。追っかけファンまでいるという、気鋭の美術史家がいる。宮下規久朗・神戸大学教授だ。その宮下氏に、教養とは何か、そして美術を通じて教養を深めるためには、どうすればいいのかを聞いた。(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)
大人気の美術史家
講演会は大人気で追っかけも
今、教養ブームである。日本のビジネスパーソンが世界に伍していくにあたり、この教養が身についているか、否か。問われる場面が多々あるという。しかし、その教養とは、一朝一夕で身に着くようなものではない。それでも私たちは教養を磨きたいと思っている。
では、その教養とはいかにして身に着ければいいのか。また、そもそも教養とは何なのか。そんな単純素朴な疑問を、美術史家で神戸大学教授の宮下規久朗氏に聞いた。
たとえ伏字にしても、その言葉だけで、誰が言ったのかわかる人がいる。宮下規久朗という人もそういう人だ。
<なぜフェルメールが日本人に愛されるのか。ある美術史家は「小さい絵」「メッセージ性のなさ」「希少性」の三要素を挙げた。>(「フェルメールが2019上半期で入場者数NO.1、なぜ日本人に愛されるのか」参照)
昨年末に出したこの記事を読んだ美術ファンから、こんな声が記者のところに聞こえてきた。「この“ある美術史家”とは宮下規久朗氏のことではないか」――。
美術界隈では、ここで触れた「小さい絵」、すなわち絵の大きさに触れる美術史家といえば、宮下しかいないのだそうだ。たったひと言、「小さい絵」と書くだけで、ファンは「宮下氏だ」と察し、こうした形でも誌面に登場したことを喜ぶ。そして、伏字であることに怒りを露にする。まさにアイドルタレント並みの人気だ。事実、宮下が監修したり、何らかの形で関わっている展覧会に、すべて足を運ぶという「追っかけ」もいるくらいである。
今年1月、大阪のあべのハルカス美術館では、その宮下の研究テーマでもあるイタリアの著名画家、カラヴァッジョの展覧会が開かれていた。この記念講演に宮下が登壇した日、昼13時開演のそれに、朝9時から大勢の人が並んだ。美術館側が用意した300席は、たちまち埋まってしまった。講演会終了後のサイン会まで、会場の外で待つファンもいたくらいだ。サイン会には手土産持参でくる人も少なくなかった。
この一事をもってしても宮下の人気がいかにすごいか、たとえ美術に関心がない向きでもわかるだろう。
その宮下は、東京大学文学部美術史学科、同大学院を修了。兵庫県立近代美術館や東京都現代美術館を経て、神戸大学助教授に就任、現在は教授の役職に就く。イタリア留学経験もあり、その著作、『カラヴァッジョ―聖性とヴィジョン』(名古屋大学出版会・2004年)で、第27回サントリー学芸賞という権威ある賞を受賞した、いわば美術界のエリートである。しかし、いくら美術界のエリートといっても一研究者に過ぎない。今、講演会を行うといって300余りの席がすぐの埋まってしまう研究者が、果たして、どれだけいるだろうか。