マイクを持った若者が絶叫している。デモ隊が官邸に向かって動き始めた。

 そのとき、デモ隊の動きが止まった。優美子が森嶋の腕をつかむ。倒れかけた優美子の身体を森嶋が支える。足元を突き上げるような衝撃が襲ったのだ。

「地震だ。かなり大きいぞ」

 誰かが叫んだ。

 頭上に目を移すと電線が大きく揺れている。

 大きな衝撃が大地から突き上げてくる。立っているのがやっとだった。2人はお互いの腕をつかんで身体を支えあった。揺れはまだ続いている。

 そのとき、道路を走っていた乗用車がハンドルを取られて反対車線を越えてカードレールに突っ込んでくる。

 激しい音と共にガードレールが大きく曲がり、1メートルほど歩道に乗り入れて止まった。

 乗用車のフロントガラスがひびが入り、そのまわりに血が飛び散っている。ホーンの音が響きわたっている。運転手はハンドルに顔を伏せたまま動かない。

 乗用車の前には10人以上の人が倒れている。半数以上の者がどこかから血を流している。路上に横たわったまま動かない人もいた。中には子供も混じっている。

 揺れはかなり長い間続いて、引いていった。

 いたるところから悲鳴が上がり、人々が無秩序に走り始めた。

 ガードレールを超えて車道に飛び出す者も多い。

 悲鳴と共に何かがぶつかる音が響く。

 音の方に目を向けると、走って来た軽自動車が車道に出た人を撥ねながら、やはりガードレールにぶつかって止まった。道路は鮮血に染まっている。