首都移転反対のデモはますます激しさを増していた。

 昼休み、森嶋と優美子は国交省を出て総理官邸に向かって歩いた。

 どちらからともなく、官邸を取り巻くデモを見ておこうということになったのだ。

 新聞、テレビでは連日、デモの様子が伝えられている。その規模と回数は日を追って増しているのだ。平日でさえ、どこかの団体が呼びかけたデモが国会か総理官邸前で行われている。

 総理官邸に近づくにつれて機動隊の車が目立つようになった。窓に金網のついたダークブルーの車列が2人を追い抜いていく。

「日本はなんだかとんでもない方向に進んでいく気がする。私たちがやってることって、正しいのかしら」

「そう思わなきゃ、やってられないだろ」

「同時に地方の首都誘致合戦が加熱している。こんなんじゃ、移転地は早めに決めて発表すべきよ」

「このドタバタの中でどうやって決めるって言うんだ。たとえ候補地を決めても、国会審議にすら入れそうにない。まずは、首都移転反対派の説得が先だろ」

「これほどの反対運動が起こるとは思いもよらなかったわね。日本の現状や経済を考えると、何か思い切ったことをやらなきゃダメなのに」

「原発反対のデモを思い出すね。原発は是か非か。善か悪か。国民は一つのテーマでしか賛否を考えることが出来ないんだ。それから生じる波及効果、影響については無視されている。複合的に物事を考えることが出来ないんだろう」

「もっと政府の説明が必要ということかしら。でも時間がないし」

 アラブの春。若者がツィッターやフェイスブックなどのSNSを利用してデモ参加を呼びかけ、一般の人たちが集まった状態に似ていた。当時は呼びかけに集まった市民の力で独裁者が排除され、いくつかの国の体制が変わった。それを真似て、煽動している複数のグループがいるのだ。

〈首相官邸を取り巻く市民は5万人を超えていると思われます。強引に首相官邸の敷地内に入ろうとするデモ隊と機動隊の間に小競り合いが起きている模様です。すでに怪我人も多数出ているとの報告がありました〉

 2人の横をラジオを持った3人連れの10代の少年が歩いていく。