やがて人の集団が見え始めた。「東京から首都を奪うな」「首都は東京にあるから首都なんだ」「日本の首都は東京のみ」拡声器の声が聞こえてくる。
「すごいわね。これは主催者側の言う通り、5万人を超えてるんじゃないの。久し振りね、こんなに盛り上がってるのは」
優美子の声も多少興奮している。
「やめてくれよ。自分の立場も考えろよ。首都移転の実務を僕らがやってると分かると、袋叩きにされるぞ」
「そんなことないわよ。女性や子供がかなりの数いるわよ。平和的な庶民のデモ」
2人は次第に増えてくる人を避けながら、総理官邸の見えるところまで来た。
官邸前の通りには何重もの人の列が続いている。手作りのプラカードを持ち、子連れの人も多い。子供から老人まで、男女を問わず参加しているのだ。
「立ち止まらずに歩いてください。立ち止ると人に迷惑になります」
機動隊の拡声器の声が聞こえてくる。
「この人たち、全員が都民なのかしら。地方からわざわざ来る人なんていないでしょ」
「正しくは首都圏の人たちだろ。千葉、横浜も首都東京の恩恵をたっぷり受けてる。首都が東京から移るとマイナスになる人は日本中でいちばん多い」
「東京は東京として、首都の肩書きを取っても経済、文化の中心として十分やっていけるのに。ニューヨークと同じよ」
「総理に直接訴えよう。首都は東京しかあり得ない」