イラン当局は国内の新型コロナウイルス感染流行の発生源として、イスラム教シーア派の聖地コムを挙げている。コムには多くの神学校や聖廟(せいびょう)のみならず、中国が後ろ盾となったインフラ建設プロジェクトも複数ある。こうしたプロジェクトには中国から来た多くの労働者や技術者が関わっていた。
コムを中心として築いた中国との深い関係は、イラン経済が米国の制裁に直面する中でも生き永らえる救いとなった。それが今では、新型コロナウイルス問題で試練にさらされている。ウイルス感染の正確な経路は分かっていない。だが、中国との戦略的な提携関係によって、イランで新型コロナの感染が広がる接触機会は無数に発生した。
英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の中東担当副所長、サナム・バキル氏は「中国は頼れる最後の貿易相手だった。だが今回は、それが非常に有毒な爆弾に変わった」と指摘する。
中国鉄路工程は、コムを通る高速鉄道を建設する大規模プロジェクトを手掛けている。その近くでは中国人技術者が原子力発電所の改造を支援してきた。さらに、コムの神学校には中国人学生が何人もいる。
イラン保健当局は感染の発生源について、コムの中国人労働者か、中国を訪問したコムのイラン人実業家である可能性が高いとの見方を示している。実業家の氏名は公表していないが、中国から他都市経由で空路コムに到着したという。
人口およそ100万人のコムでは瞬く間にウイルス感染が広がり、制裁で圧迫された医療制度に一段の重荷となった。景気も一段と悪化し、反中国感情が強まっている。
主婦のアシュタリさんは「安っぽい中国製品があふれかえっていて、誰もが不満に思っている」と語った。「こんなひどいウイルスまで持ち込むなんて」
政府統計によると、新型コロナ感染による国内の死者は350人以上、感染者は9000人に上っている。疫学者の間では、実際には数万人規模かもしれないとの見方もある。イランを訪れる人の多くは巡礼者で、こうした人々が少なくとも15カ国にウイルスを広げたとみられる。世界保健機関(WHO)や当該国の政府の発表で明らかになった。