人事評価への不満いう社員人事評価制度をどんなに改善しても人事の不満がなくなることはない(写真はイメージです) Photo:PIXTA

人事評価への不満が多くて困っているという声を最近よく耳にする。それは若手社員だけに限らず、どの年齢層を見ても、人事評価に対する不満を口にする人が非常に多い。不満が高まっている背景には、人事評価システムが揺れ動いていることがあるが、それに加えて、自己愛に満ちた「自己認知のゆがみ」という心理学的要因も深く絡んでいる。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)

人事の客観的な
評価方法はない

 ある若手社員は、人事評価への不満について次のように語る。

「年功序列の時代は終わったというのに、ウチの会社では今でも年配者が優遇されている。どうみても私の方が営業力はあると思うし、まじめに仕事をしているのに、勢いだけで仕事しているような先輩が高く評価されて、どうにも納得いきません」

 中堅社員も、自分は正当に評価されていないと不満を口にする。

「ウチの上司は人を見る目がなくて、調子が良いだけの人かどうかを見抜けない。だから上司の前で自己アピールする人ばかりが高く評価される。それを成果主義とか実力主義といって給料に差をつけるなら、年功賃金の方がよっぽどマシです」

 人事評価への不満が強いのは、若手や中堅の社員だけではない。中高年のベテラン社員の間でも不満は根強い。

「今の時代、年功賃金は崩壊したというのは理解できる。自分たちが若い頃は年配者よりも働いているのに給料が安かった。それもいずれ自分が年配になれば報われると思い我慢してきたが、もう仕方ないと諦めた。しかし、組織への貢献度が正当に評価されていない。一応の基準はあるものの、評価基準がはっきりしないため、実際の働きぶりが全然反映されないのです」

 どの人の話を聞いても、なるほどと思える内容ではある。このような不満が渦巻いていれば、職場全体のモチベーションに悪影響があるのは明らかだ。

 それゆえ、いくつかの企業担当者から「正当な評価をするための客観的な評価方法を教えてほしい」と言われることがある。

 だが、正直に言えば、そのようなものは存在しない。評価基準を明確化すればよいとか、評価基準を細分化すればよいと言う人もいるが、いくら基準を細分化し、それぞれの観点ごとに、たとえば「Aランク、Bランク、Cランク」で評価するとしても、どのような働きぶりの人をどのランクにするかは自動的に決まるわけではない。

 人間というのはきわめて主観的な生き物である。自分と性格が似ている人物や価値観の似ている人物、気の合う人物に対する評価は、どうしても甘くなる。自分に対する態度によって評価が変わることも証明されている。

 このように「人事評価を正当に行うのは非常に難しいのだ」ということを念頭に置いて、評価者は自分自身の判断を絶えず疑いながら、慎重に評価する姿勢を忘れないようにしたい。

 だが、多くの人が人事評価への不満を口にする要因は、こうした人事評価の難しさだけではない。それ以上に大きな要因として、自己愛に満ちた「自己認知のゆがみ」がある。