『組織――組織という有機体』のデザイン 28のボキャブラリー』は、長年マッキンゼーでコンサルタントとして活躍し、マッキンゼー東京支社長の時代を通じて50におよぶグローバル企業の組織をデザインし、退社後は公的組織、東京大学EMP、NPO、ベンチャー企業などさまざまな組織に関わってきた社会システムズ・アーキテクトの横山禎徳氏の新刊です。プロの組織デザイナーとして知られる横山氏の集大成と言える本書では、合理的には動かない人間の集団である有機体としての組織を、いかに戦略が機能する組織にするか、そのポイントをユニークなボキャブラリーとして解説しています。本連載では、そのエッセンスを紹介していきます。

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組織は時間とともに風化する

組織の効果が永続しない理由として、「組織の風化」という問題が挙げられる。

いかに優れた組織であろうと、長い時間を経れば、段々と澱がたまってくる。ワインであれば、澱がたまるのはエイジングによるもので、それ自体が悪いとは言えないが、組織にとってはいいことではない。組織内の行動にさまざまなタブーや不文律が生まれる。「うまくいったら僕のせい、まずくなったら君のせい」と言いがちな、責任を巧妙に回避する「エリート人材」がスタッフとして幅を利かせ、かつてあったはずの新鮮な気持ちやチャレンジ精神は影を潜める。

いかなる状況であろうと、現状を維持したがるのが人の常である。自己保存、自己防衛の本能からなのだろうか、「大きな不幸」であっても慣れて、受け入れてしまう。その結果、どのような組織にも「小さな幸せグループ」と呼ぶべき、もはや出世に興味はなく、自分のやり方とペースで仕事をこなし、日常生活の中に楽しみを見つけている少人数のグループが、ほぼ例外なくいくつか存在している。「小さな幸せグループ」は、組織における典型的なボキャブラリーの一つである。

この人たちはちょっとした変更でも、とかく文句や異議を唱えがちである。あるいは、ひそかにサボタージュをする。改善なのか改悪なのかは問題ではなく、現状を変えることが問題なのである。なぜなら、これまで後生大事につくり上げてきた「小さな幸せ」が壊されかねないからである。

組織人の常として、組織内での自分の権限にきわめて敏感である。小さくまとまりがちな「小蟹の甲羅」づくりに励んでしまう。「大魚の背骨」をつくることは得意でもないし、やりたがらない。

自分が管轄する事業部門が成長し、他部門のテリトリーを侵しかねないほど規模も大きくなることは、企業全体にとっては成長であり、望ましいことなのだが、組織人は境界、そして責任がはっきりしていることを好む。その結果、境界あたりに目配りが十分でないか、お互いに譲り合う隙間ができていることがある。未経験あるいは想定外の事態が生じると、「ライト・センター間落球」が生まれやすくなる。それゆえに、組織の箱の境界領域で起こりやすい不測の事態にも対応できる、オペレーティング・システム・ソフトウエア(OSS)という組織デザインのボキャブラリーを持っていることが必要なのだ。