――筆者のヤロスラフ・トロフィモフはWSJ外交担当チーフコレスポンデント
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ロシア国防省が公表した写真は前例のないものだった。
ロシアとイタリアの軍高官たちがイタリア半島の地図を囲み、ロシア部隊の進路を練る様子を写した写真。ロシア国旗を掲げ、イタリア語、ロシア語、英語の3言語で「ロシアより愛をこめて」との標語を描いた軍用車両が、新型コロナウイルスの感染流行で最も打撃を受けた都市の一つ、イタリア北部のベルガモへ向けて走行する光景もあった。ウイルス感染によるイタリア国内の死者はこれまでに1万1000人余りに上っている。
ロシアも同じような水準の感染流行に直面するかもしれない。30日には首都モスクワがロックダウン(都市封鎖)された。それでもウラジーミル・プーチン大統領は、欧米の同盟弱体化を狙う試みに時間を費やし、得点を稼いでいる。
イタリアと同盟関係を結ぶ北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)の加盟国から支援が来る気配もない中、プーチン氏は医療物資と軍関係者を乗せた空軍輸送機「イリューシン76」9機を派遣。プーチン氏とジュゼッペ・コンテ伊首相が3月21日に協議してから24時間以内に、機体はローマ近郊のプラティカ・ディ・マーレ空軍基地に着陸した。
ビンチェンツォ・カンポリーニ元イタリア軍参謀総長は「ロシアは極めて迅速に現状を利用している」と指摘する。「だが、われわれの悲劇がプロパガンダの目的に利用されているのは非常に不快だ」
事情に詳しい関係者によると、100人超のロシア部隊が間髪おかずに到着したことに多くのイタリア当局者は意表を突かれ、コンテ政権内で批判が渦巻いた。2014年のウクライナ侵攻を巡り、ロシア政府はEUの制裁下にある。イタリア北西部トリノの新聞ラ・スタンパは、部隊の到着をソビエト連合による1979年のアフガニスタン侵攻に例えたほどだ。これを受け、ロシアのセルゲイ・ラゾフ大使は怒りをあらわにした。
ラゾフ大使は同紙への書簡で、「ロシア部隊の派遣がイタリアとNATO諸国の関係に何らかのダメージを生じさせたと(根拠なく)推論するのであれば、苦難の時にイタリアの人々を誰がどのように助けに来るか、われわれは読者自身に判断してもらう機会を提供したい」と述べた。
ロシアは、中国がそれまでの数週間にしたように、EUとNATOの内部で混乱が生じ始めるとすぐに行動を起こした。ドイツやフランスを含む複数のEU加盟国は3月初旬、単一市場であるはずの域内で、他の加盟国へ向けた手術用マスクなど重要資材の輸出を停止した。米国も同盟国である欧州のNATO加盟国に連帯する態度をほとんど見せなかった。