無名の美術教師による初著書だったにもかかわらず、各界のオピニオンリーダーらやメディアで絶賛され、発売1カ月で3万部超という異例のヒットとなった『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』。先行きが不透明な時代だからこそ知っておきたい「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、「自分なりの答え」を生み出す思考法とは? 同書の一部より一部を抜粋してお届けする。

許される? 許されない? 「作者の意図」を無視した“身勝手”なアート鑑賞Photo: Adobe Stock

作者の意図とは関係なく
「勝手に鑑賞する」ということ

前回はアート作品の鑑賞には「2種類のスタイル」があることを確認しました。

※参考記事
どんなアート作品にも「2通りの鑑賞法」がある
https://diamond.jp/articles/-/233673

一つめは、作者の考え・人生、歴史的背景、評論家による分析、美術史における意義」など、作品を背後から成り立たせているものに基づく「背景とのやりとり」。たとえば、「ピカソは《アビニヨンの娘たち》によって、『遠近法的なリアルさ』に対して疑問を投げかけた」というのは、背景とのやりとりによる鑑賞です。

もう一つの鑑賞スタイルが、アーティストの意図やその他の文脈からは完全に独立したかたちで、ただただ作品とだけ向き合う「作品とのやりとり」です。鑑賞者が作品とやりとりするときには、アーティストがどんなことを考えて作品をつくったかはまったく考慮されません。

たとえば、カンディンスキーというアーティストは、モネの《積みわら》という作品を前にしたとき、まさに「作品とのやりとり」をしました。

初めてこの絵を見た彼は、「なにが描かれているのかわからない。けれど、なぜか惹かれる!」という感覚を持ちました。そこで彼は、性急に「作品のタイトル」などに正解を求めるということはせず、自分と作品とのやりとりによって湧き起こったその感覚を大切に、それを再現すべく探究をはじめたのです。

そして、音を色に置き換え、リズムを形で表現することで彼がたどり着いたのが、「具象物を描かない絵」という「自分なりの答え」でした。

Vassily Kandinsky, 1913 - Composition 7.jpgBy Wassily Kandinsky, Public Domain, Link