一昔前までは、大都市の繁華街に足を運べば、強引に声をかけているキャッチ(客引き)やスカウト、電柱のピンクチラシを頻繁に見かけた。しかし、全国的な浄化作戦が実施されるなかで、街が持つ猥雑さはかつてほどの勢いを失っているかのようにも思える。私たちは快適な街を歩けるようになったのだろう。そう、いたるところに無数の“スカウトマン”がいることも知らずに――。
社会学者・開沼博は繁華街のスカウトで生計を立てる28歳の青年、赤坂に密着する。赤坂は使い慣れたスマートフォンで20人以上の“ポケモン”を管理する敏腕スカウトマンだ。10年以上にわたり、穏やかな日常と「あってはならぬもの」をつなぎ続ける彼が語る、急速な技術革新が、猥雑さを失いつつある街にもたらした驚くべき変化とは。
私たちが見ているようで見ていない、もしくは見えない“ふり”をしている現実とは何か。スカウトマンの姿を通して、2週連続で漂白された繁華街の真実に迫る。次回更新は8月28日(火)(通常は隔週火曜日更新)。
スマホの中で20人以上の“ポケモン”を管理
「女のコはポケモンの名前で入れてるんですよ」
携帯電話の話題になった時、そんなエピソードが出てきた。iPhone4Sの中に登録された“ポケモン”の数は20を超える。
「着信で名前が出てるの見られたりしたら色々ややこしいじゃないですか。オレのことを会社員で、付き合っている彼氏だと思っているコもいれば、とりあえず店に送り込んだだけでずっとスカウトバックが入ってきているコもいます」
こう語る赤坂は28歳。身長は180センチ、体重は80キロを超え、色黒の肌に短髪というコワモテだ。彼は「ヘルス(ファッションヘルス)」や「デリヘル(デリバリーヘルス)」と呼ばれる性風俗店に働き手を斡旋する「スカウト」を生業としている。
赤坂が「スカウト」を始めたのは高校生の時。ただ、その対象は女のコではなかった。
「地元の知り合いから『工事現場の力仕事に人が足りない』っていう話がきたんで、人を集めて連れて行った。やってみると、一人頭の日給が1万円なら、数千円とかが自分のところにバックされる。10人集めて送り込めばたいした売上になるわけです。まあ、人夫出し(にんぷだし)なんて人手が欲しい現場では大昔からある話ですよ。“人材業”を始めたのはそのころからですね」
「バイトやらん?」と地元の友人・後輩に声をかけ、本人、あるいは本人がダメでも「紹介料払うから」とその周囲に声をかけてもらい、芋づる式に人を集めていく。地元の進学校に通う高校生でありながら、毎月数十万円が手元に入るようになっていた。