なぜデリヘル開業に「間取り」提出が求められるのか

営業許可までの流れが記された行政資料

「店舗型の風俗は開業できないけど、デリヘル開業は意外と簡単にできるんですよ。色々手間はかかるけど、ちゃんと書類そろえて基本的なことさえ守れば」

 固定され可視化されている店舗型性風俗から、流動的で不可視な無店舗型性風俗へ。店舗型の性風俗は今も街に残っているが、その数は目に見えて減少している。

 警察庁によれば、店舗型風俗(モーテル・ラブホテルを含む)の出店数は、2000年代初頭に1万件を超えていたが、その後の10年間で減少を続けたため今では6000件ほどになった。一方で、無店舗型性風俗は、同じく2000年代初頭には6000件ほどだったものが、一時は2万8000件ほどまでに増加し、その後の摘発強化によって減少したものの依然として1万件超を維持している。

無店舗型性風俗特殊営業届出確認書

「意外と簡単」なデリヘル開業の最大の障壁は、「デリヘル事務所としての使用を承諾されるための印鑑」を、事務所として使用する物件のオーナーからもらわなければならない点だ。

「元々風俗が入っていたとか、飲み屋で働く外国人の合宿部屋だったとかであれば、オーナーも寛容。でも、なかなかそう都合がいいところがすぐ見つかるわけでもないんで、基本的には、物件の登記簿を調べて、オーナーに直接連絡しまくって承諾をもらうしかありません」(デリヘル経営者)

 許可をくれるオーナーを見つけることは容易ではないため、オーナーも借り手の足元をみて敷金・礼金や家賃を上げてくることも多いという。

「デリヘル事務所としての使用を承諾されるための印鑑」をもらうことができれば、そこに事務所への地図(Googleマップを印刷したような簡易のものでよい)、間取り(机・椅子の配置を含む)と求積図を添えて、店舗の名前、客からの問い合わせを受ける電話番号・ホームページURL・メールアドレスなどが書かれた「無店舗型性風俗特殊営業届出確認書」を自治体の公安委員会に提出することになる。

書類には事務所の間取りの詳細が記載されている

「間取り」の提出までが必要とされる理由は「警察が押し入る時のため」であり、常につながる電話番号・メールアドレスが求められるのは、何かあればいつでも運営実態を確認できるようにするためだ。届出の受理は「大阪は即日出るのに対し、名古屋は長かったり」(前出のデリヘル経営者)と自治体によって多少のばらつきはあるものの、基本的には受理されるという。

「店舗型性風俗もダメ、無店舗もダメとなったら、する側もされる側も権力から見えないところで売春を始めちゃう。それなら『警察が把握する範囲でならいい』っていう“登録制”になっていくのは当然でしょうね」(赤坂)

 市民の目が向けられている街に「あってはならぬもの」を野放しにするわけにもいかず、だからといって売春の地下化を助長するわけにもいかない。登録制を採用することによって、権力側にとっては「あってはならぬもの」を可視化できることとなり、性風俗店運営者側は「問題起こさず商売する」ことになる。