例年、年度末にはIPOが集中する傾向にあります。こうした集中はIPOの成功にどのような影響を及ぼすのか、また株価形成が当初の想定通りにいかないと、会社にとってどのような影響が生じるのか。今回は、新規上場時の株価形成プロセスについて考えます。
IPO時の株価はどのように形成されるのか
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):
例年、年度末の12月にはIPOが集中する傾向にあります。一般的にこれは、各社の決算期が特定の月に集中するためだと言われています。IPOが同時期に集中すると、投資資金の需給面にも影響が生じます。
仮条件が想定価格より下がってしまったり、公募割れ(公募価格よりも初値が低くなってしまうこと)したりといったケースが生じやすくなるということですね。今回は、想定していた水準の株価がつかなかった場合に、どのような事態が起きるのかを考えてみたいと思います。
その前に、IPO時の株価がどのように形成されるのかを整理しておきましょう。新規上場に際して出てくるキーワードに、「想定価格」、「仮条件」、「公募価格」、「初値」といった用語がありますが、まずはこれらの用語の意味を確認しようと思います。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):想定価格(想定発行価格)とは、IPO株の予定発行価格のことです。上場承認前に設定される株価ですね。上場時の資金調達額を決める目安として設定されるものであり、目論見書の「新規発行による手取金の使途」という欄に記載されています。
朝倉:証券会社が上場予定の会社と議論し、「この会社の株価は大体このくらいじゃないか」と想定する価格ですね。
村上:はい。次に、「仮条件」。これは新規公開予定の会社の株式の発行価格がブックビルディング方式(需要積み上げ方式)で決められる際、引受証券会社があらかじめ提示する価格帯のことです。投資家は、その価格帯を基に需要価格や株数を申告します。
仮条件は、機関投資家や他の幹事証券会社等のヒアリングを行い、類似会社との比較、マーケット環境、上場日までの期間における価格変動リスクなどを総合的に検討した上で、主幹事会社と新規上場予定の会社が協議を行って決定されるものです。
前述の通り、仮条件とは価格帯のことであり、上限と下限が設定されます。そしてこの仮条件をもとに「公募価格」が決められます。「公募価格」とは、実際に投資家が購入する株式価格のことであり、「初値」とは、上場後最初に売買が成立した値段のことです。
朝倉:それぞれに、具体例を交えながら株価が形成されるプロセスを考えていきましょう。
村上:例えば、証券会社が値付けした想定価格が1,000円だったとします。そこから市場等の調査を経て、仮条件が下限800円上限1,200円と設定されたとします。仮条件が決まった後に、さらに投資家から「何円で何株を買いたいか?」といった申込みを受け付け、「これくらいの需要感であれば、今回は仮条件の上限である1,200円でプライシングをしよう」と判断されれば、1,200円が公募価格になります。
朝倉:前提として、IPO株は買いの需要が高い場合、誰でも購入できるわけではなく抽選によって購入者が決まります。買いたいと希望する投資家が応募する際の価格が公募価格ですね。この「公募価格」に対して、上場時に、すでに株をもっている人が株式の売却を希望し、その株の購入を他の投資家が希望した場合、市場で最初に売買が成立する価格が「初値」です。
例えば、公募価格が前述した例のように1,200円だったとして、初値が2,000円だとすると、約7%の上昇率ということですね。逆にこのケースで初値が1,100円だと、公募価格よりも初値の方が低かったということで、「公募割れ」と呼ばれます。