「思ったより高く売れなかった」ときの負の影響

朝倉:もともとの想定価格よりも仮条件のレンジが低く設定されてしまった場合、もしくは公募価格が仮条件の下限よりもさらに下回ってしまった場合、会社側にはどのような影響があるのかを考えてみましょう。

村上:当初の想定価格よりも高く売れなかった場合、まず資金調達額や売り出し株数に影響が及びます。そもそもIPOとは広く資金調達をすることを目的に行われますので、株価が想定価格を下回ると、思ったよりも資金調達ができなかったということになります。

これはつまり、経営チームが思っていたようには成長資金が確保できなかったことを意味するので、当初想定していたよりもビジネスの成長ドライブをかけづらくなってしまう可能性があります。

また、売り出し株数を絞らなければならなくなった場合、これまでサポートしてくれたVCなどの投資家が株を売る機会を失ってしまいます。一方で、こうした投資家が将来的に株を売らなければならないという状況は変わらないため、潜在的な売り圧力が強くなります。これがオーバーハングですね。

さらに、超過需要が見込まれない状況は、アフターマーケット(IPO以降に売買する市場)にも影響を及ぼします。IPOのプロセスで十分に需要が喚起できていない状態で株価がついてしまうと、IPO後も株を購入したい人が出てきづらい。そのため、IR(Investor Relations)や株価形成等、非常に苦しい船出を強いられることになります。

まとめると、ビジネスの成長ドライブをかけづらくなる、売り圧力が強くなる、アフターマーケットでも需要喚起しづらくなる、の3点が、株式が想定していたよりも高く売れなかった際に生じるネガティブな影響の主な例です。

小林:もう一点、投資家に向けて会社をアピールする上でも、ネガティブな影響があると思います。IPOプロセスは、会社にとって、本来非常に良い自己アピールの機会です。IPOプロセスがうまく運ばないということは、投資家にアピールをし損ねたということを意味しかねません。

機関投資家は往々にして、会社がIPOプロセスで話した内容をよく覚えています。これがうまくいかないと、「自分たちはものすごく優秀なんだ」とアピールしていたのが、蓋を開けたら実はそうでもなかった、といった印象を投資家に与えてしまいかねないのです。

つまり、会社側の説明の説得力や株価の見立てに対して、投資家が疑問を抱いた状態で上場会社として歩み出すことになってしまいます。

朝倉:結果として、上場後の資本政策が思った通りにいかなくなってしまう可能性があるということですね。想定価格、仮条件、公募価格、初値のいずれも、当初の目論見からずれないことが望ましいため、現実を織りこみながら想定価格を決め、資本政策を立案していく必要があるのでしょう。

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)、signifiant style 2019/12/27に掲載した内容です。