政府の誤算が原因で
酒を飲めない事態に

 ところが、政府の大きな誤算があった。

 ソンクラーンに当たる4月中旬から下旬は例年、自動車などの製造業が操業を停止する一斉休業の時季でもある。

 長期の休みに向けて原材料の発注を止めるなど、製造ラインは数カ月も前から準備を進めている。そのため、突然、1カ月前に操業を継続しろと言われたところで、おいそれと従うわけにもいかない。

 結局、日系を含む自動車など多くのメーカーは国の方針とは裏腹に、長期の休みに入ることとなった。

 こうした民間企業の相次ぐ長期休業を受け、困惑したのは内務省に設置された新型コロナウイルス感染症対策センターだった。

 休みとなれば、何千人、何万人という労働者が街にあふれる。もしくは大挙して田舎に帰る。

 とはいえ、ソンクラーンを取りやめたとなれば、街にいても故郷にいても、やることはただ一つ。集まって酒を飲んで騒ぐだけ――。

 こうして、酒を媒介に人が集まる場を減らすことを狙って急きょ発令されたのが、バンコクでは4月10日から始まった酒類販売禁止令だった。

 同様の禁止令は全国77県にも広がっている。解除までの期間が最も早いのは東部ラヨーン県などで4月16日まで。長いケースでは、パタヤ特別市を抱える東部チョンブリー県などが5月1日の解除を予定している。この間、国民は私的に酒を買い求めることが一切できなくなった。

「反タクシンによる反政府デモの時も、軍事クーデターの時も、酒の販売までは禁止されなかった。国もそれだけ危機感を持っているということだろうが、今回ばかりは仕方ない」

 こうぼやくのは、酒類や日用品など生活用品全般を扱うバンコクの雑貨商エーさん。

 自分の店を持って間もなく40年。こんなソンクラーンは初めてだと首をすくめる。

 タイには仏教で定められた酒類の販売を禁止する「禁酒日」が年に数日あるが、その時でさえこっそりと売ってきたという。

 ところが、今回は「巡回中の警察官の態度が違う。見つかれば、そのまま刑務所行きだよ」と肩を落とす。