コロナショックを経済・金融危機に「変異」させないための備えは整っているのだろうか。次に金融危機が勃発するとすれば、基軸通貨ドルのスワップ供給網から漏れた新興国の可能性が高い。

なかそ・ひろし/大和総研理事長。1978年東京大学卒業。日本銀行入行。金融危機時の97年は信用機構課長、その後、金融市場局長、国際決済銀行市場委員会議長、理事を経て2013年副総裁に就任。19年に東京国際金融機構会長に就任。

 前編で述べたように、今後の対応のポイントはコロナショックが金融システムの安定までをも損なわないようにすることですが、そのための備えは整っているのでしょうか。以下では、金融安全網について達成された成果と残された課題について見ていきます。

(1)国際金融規制
当面は柔軟な対応も必要

 第一には国際金融規制面での進展です。この面では、国際金融危機の反省から、自己資本比率規制(※6)により、金融機関に十分な自己資本を保有することを求め、これを補完するために、バランスシートの規模拡大を抑制するレバレッジ規制が導入されています。また、流動性不足にも耐えられるように、金融機関に十分な流動資産の保有を義務付ける流動性比率規制(※7)も課せられています。これらは、いずれも金融危機を防止するために有効です。いわゆるバーゼルIII(※8)により金融機関の自己資本は格段に厚くなっています。これにより、たとえ損失が発生しても、これを吸収できる十分な自己資本バッファーを備えるようになっています。

 また、国際金融危機まで残っていた「トゥー・ビッグ・トゥー・フェイル(金融機関の規模が大きすぎて破綻させることができない)」の問題についても、債権者の損失分担の仕組みや破綻処理の制度が整備されてきました。金融規制・監督制度の改善により金融システムは、嵐を乗り越えていけるだけの頑健性を有するに至りました。

 この分野において残された課題は、当面は、これまで国際金融市場で観察されたことを踏まえ、必要があれば柔軟に対応することです。例えば流動性比率規制が流動性需要を高めている可能性があるので、市場がストレス下にある時は、一時的に規制で求められる比率を下回ることを許容する扱いとすることが適当だと思われます。さらに、レバレッジ比率規制(※9)は、本来国債の安定的投資家である金融機関の現物国債の保有需要を抑制する方向に作用するので、国債の保有主体がヘッジファンドを含むノンバンクなど不安定なところへ移っていることが、米国債市場のボラティリティを高めた一因となっていると思います。こうした視点を踏まえると、規制の体系を、少なくとも一時的に柔軟に調整することも必要かもしれません。

 中長期的には、合意された規制内容を各国が整合的に、かつ、市場の分断を伴うことなく導入を進めることが課題です。市場の分断は、各国間で規制導入のスピードの違いやルールに関する解釈が異なることに起因します。このような分断は市場間での裁定の機会を提供し市場を歪めることになるので、結果的に規制の目的とは裏腹に金融システムの脆弱性を高めることになりかねません。