日本は少しずつ、確実に貧しくなっています。それでも平成の時代は昭和の遺産を食いつぶすように生きながらえることが出来ました。しかし、令和の時代はますます厳しさが増していくことは間違いありません。今はコロナのことで皆さん頭がいっぱいになっていますが、この危機が去った時にどんな経済状況が待っているのか。それを考えるとゾッとします。
 日本人の貧困化を食い止めるにはどんな方法があるのか?
 その一つは、一人ひとりが「投資家の思想」を持つことだと思います。これまで多くの日本人は「労働者の思想」しか持っていませんでした。しかしその思想では、もう未来がないのです。
「投資家の思想」こそが日本の未来を切り開くと私は信じています。少なくとも、その思想を持てた人は、生き残ることが出来ます。
 投資をすることがビジネスパーソンとしていかに大事であるかということを知っていただきたいと思い、私は『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』(ダイヤモンド社、5月27日発売)という本を書きました。ここで言う投資とは、チャートとにらめっこして売り買いを繰り返すことではありません。それは「投資」ではなく「投機」です。ギャンブルとなんら変わりありません。私が言う「投資」とは、もっと大局的でビジネスの本質に関わるものです。

なぜ日本人は投資が苦手なのか?Photo: Adobe Stock

かつて日本にはすごい
資本家が大勢いた

 日本人はそもそも投資が嫌いなのか、それとも投資が下手だと思っているのかよく分かりませんが、何となく「投資」に対してある種の偏見があるような気がします。

 私の親は、私に向かってよくこう言います。
「大学まで出たのに、なんで株なんかやっているんだ」

 株式市場は鉄火場。つまり博打を打つ場所だと思っているのです。私の親と同じ考え方の人は、今も結構いらっしゃいます。「我が家は家訓で株式投資はやらないことになっている」なんて言う人もいたりします。

 しかし、恐らく日本人の間に投資を嫌悪するようなメンタリティが広まったのは、そんなに昔のことではないと思います。

 日本の資本主義の歴史をたどると、その考え方が入ってきたのは明治時代のことです。2021年のNHK大河ドラマの主人公は、今度、1万円札の顔になる渋沢栄一です。彼は慶応3年に、君主である一橋慶喜(ひとつばしよしのぶ)公の弟の随行でパリの万国博覧会に行き、そのまま1年半をパリで暮らしました。そのなかで近代西洋社会に触れて、資本主義の考え方を身に着けたのです。そして大蔵省に勤務し、そこを辞めてから第一国立銀行を設立。それ以外にも500以上の株式会社設立に関与しました。

 渋沢栄一が関わった会社として知られているのは、みずほフィナンシャルグループ、東京海上火災保険、日本郵船、カネボウ、キリンビール、秩父セメント、帝国ホテルなど。今でも一流企業として存続している会社がたくさんあります。

 また2010年のNHK大河ドラマだった「龍馬伝」は、坂本龍馬が主人公でしたが、あのドラマは岩崎弥太郎の視点から坂本龍馬を描いたものでした。ちなみに岩崎弥太郎といえば、三菱グループの創業者です。

 岩崎弥太郎と渋沢栄一は、お互いに強いライバル意識を持ち、海運ビジネスで激しい競争を繰り広げたのですが、彼らこそはまさに資本家そのものでした。岩崎弥太郎にいたっては、儲けも権限もすべて自分のもとに集め、自ら大きなリスクをとって商売を展開しました。

「日本人はリスクを取るのが苦手」などと言う人もいますが、そんなの大ウソです。日本には明治時代に創業して今に至っている企業がたくさんありますが、創業当時は、とてつもなく大きなリスクを抱えて、商売に邁進していたのです。

 そして三菱財閥、三井財閥、住友財閥、安田財閥、大倉財閥、渋沢財閥といった富豪の一族が財閥を形成して群雄割拠していきました。財閥とは家族や同族が親会社をつくり、その傘下にさまざまな種類の産業に属する企業を統治している企業形態です。

 自ら資金を出し、リスクを引き受けて投資を実行する。そして大勢の社員を雇って働かせる。財閥の長はまさに資本家そのものといっても良いでしょう。日本の資本家マインドは、明治時代の幕開けとともに欧米から入ってきて、根付いていったのです。