戦争で分断された
「投資家マインド」

 ところが、日本において資本家マインドは一部の財閥経営者を除けば、ほとんど浸透しませんでした。

 なぜでしょうか。私はこの裏側に、日本が経験した第二次世界大戦における敗戦があったのではないかと考えています。敗戦によって日本では、次の世代に向けて資本家マインドが定着する機会を失った、とでも言えば良いでしょうか。

 2つの点で、日本人の資本家マインドを喪失させたと考えられます。

 第一は財閥解体です。皆さんも、歴史の教科書で少し聞いたことがあるのではないでしょうか。これは連合国による日本の占領政策のひとつです。どうやら連合国側には、日本の財閥が軍国主義を制度的に支援したという認識があったらしく、これを解体すれば軍国主義は消滅すると考えていたようです。この政策によって三井本社、三菱本社、住友本社、安田保善社といった持ち株会社は解散させられ、かつこれら4大財閥の構成員や持ち株会社の役員、監査役は産業界から追放されました。

 これによって資本家としての成功体験が完全に失われました。海外にはロスチャイルド家、ロックフェラー家、モルガン家など、長い歴史を持つ名家があり、いずれも世界のビジネス界において名前が知られています。ロスチャイルド家といえば金融資本ですし、ロックフェラー家といえば石油資本です。こうした資本家の成功体験を持っている国では、全国民とは言いませんが、しっかり資本家マインドが根付いていきます。

 でも、日本はそれが完全に財閥解体によって断ち切られてしまいました。三菱本社、三井本社といった財閥が解体されることなく、今も脈々と続いていれば、日本にも資本家マインドが定着したはずです。

 資本家マインドが失われた第二のポイントは、焦土と化した日本で皆、生きていくために、労働者として働かざるを得なかったことが挙げられます。全員が労働者1.0になってしまったのです。投資をしようにも「お金」がないのだからどうしようもない。労働力しか売るものがなかったのです。

 このように考えると、世間で「日本人は投資が嫌い」とか、「日本人は投資が苦手」などと言われていることが、いかに的外れであるかが分かります。日本人だって本来、資本家マインドを持っていた。にもかかわらず、それが育まれていく一歩手前で敗戦を迎え、その機会を失ったまま今に至っているというのが、本当の姿だと思います。

参考記事
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なぜ日本人は投資が苦手なのか?
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)。
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』(ダイヤモンド社)など