――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」
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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、サプライチェーンの転換を示す第1弾の動きが進んでいる。消費財メーカーのアイリスオーヤマは今週、これまで行ってきたマスクの中国生産に加え、日本企業で初めて、政府の補助金を受け国内生産を拡大する方針を明らかにした。
医療上また安全保障上の目的で、生産の一部を国内に戻すのは一理ある。だが、大規模なグローバル化の巻き戻しや多くの製品の国内生産復活を予想すると、期待外れに終わるかもしれない。
米中貿易戦争のさなか、国内生産回帰は、コロナウイルスが流行する以前から既に大きな論点だった。経営コンサルティング会社ATカーニーが行った国産化に関する年次調査によると、米国内生産に対するアジア製品輸入の比率は2019年に低下し、過去最高から一気に5年ぶりの低水準となった。
だが、この低下は中国からの輸入が激減したことによるものだ。実際、アジアの他の低所得国からの輸入は増加し、米国の製造業生産額はほぼ横ばいだった。
これは、必ずしもグローバル化の巻き戻しとは言えない。国々が豊かになるにつれて、高付加価値の製造分野に軸足を移し、生産国が変わることは目新しいことではない。かつて韓国や日本が行っていた生産の大部分を中国が占めるようになったのと同様、バングラデシュやベトナムは、中国が現在担っている生産の一部を奪おうと虎視眈々(たんたん)だ。