問題となった「日勤教育」
鉄道会社のタテ社会は改善されたか?

 福知山線の事故においても、事故現場直前の伊丹駅でオーバーランしてしまい、運転士が列車の遅延を回復したいがためにむちゃな運転をしたともみられている。当時のアーバンネットワークのダイヤは、他社に対抗し、少しでも早く運転するために秒刻みのダイヤ構成だった。そんなプレッシャーの中で運転士たちは、少したりとも遅れを出すことはできないと気を張っていたことだろう。

 事故を起こした運転士は、速度超過をしてまでも遅延を出すのが怖かったのか、それとも立て続けのミスによりパニック状態だったのか…。本人が亡くなっている以上、その真意は永久にわからない。

 もちろん、この運転士は規則の範疇を大幅に超えた運転をしており、これこそが事故発生の引き金となったのだが、その後の調査では、事故に関係するバックグラウンドが明らかになっている。

 運転士が無謀な速度超過をした背景として、JR西日本の「日勤教育」が連日ニュースなどで取り上げられた。日勤教育は本来、事故再発防止を目的とした教育制度だったのが、実際には、トイレ掃除を命じられたり、暴言を浴びせられたりするなど、見せしめともいえる懲罰的な教育になっていたことが問題となった。この運転士も、過去に日勤教育を受けている。再度、日勤教育を受けなければならないという恐怖心が、彼に異常運転をさせてしまった可能性も語られた。

 現在、鉄道のみならずさまざまな業界で組織の改善が行われている。今年6月にはパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が施行されるが、2005年当時は、このような社会通念は、今ほど一般的ではなかった。ましてや、保守的な会社は、いわゆる「縦社会」の組織であることが容易に想像できる。JR西日本においても、先述の行動計画の中で、鉄道は「専門分野ごとの縦割り意識や指揮命令系統を明確にした上意下達の風土になりやすい素地」があるとしている。

 この記事を書くにあたって、鉄道各社の従業員にインタビューしたが、直接的な日勤教育制度のようなものはないにせよ、いまだに現場には、そのような体質が多かれ少なかれ残っているのが現実だという。この辺りは、ほかでもないJR西日本が事故を教訓に15年にわたって研究しているだろう。今後は業界全体の進化に向けて、他社にも知見を還元してくれることを期待したい。