
日本に限らず、がんと診断された就労者は、診断後に配置換えや休職、離職という現実に直面する。
近年は行政の働きかけや社会通念の変化もあり、頭から離職を迫られるケースは減っているが、それでも診断後に退職、廃業した人は、がん患者のおよそ2割にのぼる(厚生労働省委託事業「平成30年度患者体験調査報告書」)。
特に女性は、50代までの仕事に、家事に、育児に追われる現役世代のがん罹患率が高く、男性より就労と治療の両立が難しい可能性が指摘されてきた。
全国健康保険協会は、保有する診療報酬請求および特定健診データベース(協会けんぽDB)を用い、就労女性を対象に婦人科がんと診断後の離職との関係を調べている。
本調査では協会けんぽDBから2017~23年に、乳がん(5万9452人)、子宮頸がん(1万4713人)、子宮体がん(1万6933人)、卵巣がん(8866人)と診断された15歳以上58歳未満の就労女性およそ10万人と、これらのがんに罹患していない就労女性を1:10でマッチングし、退職率を比較した。
追跡期間は2年間で、乳がん女性の年齢の中央値は48歳、子宮頸がんは46歳、子宮体がんは49歳、卵巣がんは47歳だった。
調査の結果、婦人科がんと診断された女性は健康な女性と比較し、離職率が有意に高いことが判明している。さらに離職しやすい女性には、(1)年齢が高い、(2)月収が低い、(3)うつ病の既往がある、という特徴が共通していた。
研究者は、年齢やメンタルヘルスの問題などを抱え、社会的に弱い立場にある女性はがん診断後に離職に追い込まれやすいと指摘し、「治療と仕事を両立するための支援の拡大が必要だ」としている。
多くの人は「がん診断」=「人生の終わり」と思いがちだが、治療の進歩で生存率は確実に改善された。むしろ今は、がんと診断された後の長い人生のなかで治療と社会生活をどう両立していくかが課題だ。がんサバイバーこそ仕事を続ける意味がある。
26年4月1日からは、治療と仕事の両立支援が事業主の努力義務とされる。職場の担当者と一緒にさまざまな支援制度をうまく利用しながら、離職以外の選択肢も探っていこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)