「過剰に人々の恐怖心を煽る」報道が、行政の電話相談窓口や保健所、医療機関に人々が殺到し、現場を混乱させるという現象を引き起こしている。実際、岡江久美子さんに関する報道後、行政への電話相談件数は増加。トイレットペーパーパニックに火をつけたのもテレビだった。今、最も自粛が必要なのはマスコミではないだろうか。(ノンフィクションライター 窪田順生)

岡江久美子さんの自宅前から
驚きの生中継

トイレットペーパー買い占めもテレビ報道が火をつけました。コールセンターへの相談殺到やトイレットペーパー買い占め、医療機関や保健所に不安に駆られた人々が押しかけるなど、テレビの過剰報道の弊害は大きい Photo:JIJI

 4月24日の夕方、あるニュース番組を見ていたら、キャスターが突然、「ここで中継が入ります」と言い出した。また首相か都知事が緊急会見でもするのかしらとボリュームを上げたのだが、次に流れた映像に思わず目を疑った。

 なんと、前日に亡くなった岡江久美子さんのご遺骨が自宅に運ばれてくる様子を実況中継し始めたのである。

 確かに、岡江さんの死は世間に大きな衝撃を与えたが、荼毘に付された姿まで公共の電波で流す必要などまったくない。新型コロナでお亡くなりになった方のご遺体が、感染防止のために家族と最期の別れをすることもできずに火葬場に直行となるということは、既にさまざまな形で報道されている。だから、一般人がコロナで亡くなっても自宅前から中継などしない。

 にもかかわらず、岡江さんの場合、マスコミが大挙して自宅に押し寄せてこの大騒ぎだ。「報道」という大義名分のもとに「見世物」にしているようにしか見えない。

 なんて感じで驚いていると、そんな批判が来ることは予想していたのか、聞いてもいないのにキャスターがこの中継の「意義」を語り始めた。まとめるとこんな感じだ。

 自分たちとしても、ここまで報道をすべきかという迷いはあったが、岡江さんが有名人であるということと、新型コロナの恐ろしさを世間に伝えるためということで決断をした――。

 要するに、日本中が知る有名女優が「無言の帰宅」をしたというショッキングな映像を流すことで、行楽地やパチンコ屋に行くような「コロナをナメている人々」も恐怖を感じて外出を控えるようになるので、それなりに公益性があるんですよ、というワケである。事実、キャスターは岡江さんの遺骨が玄関に置かれた際に、繰り返し「これがコロナの恐ろしさです」と連呼していた。

 と聞くと、「なるほど、確かにあの切ない映像を見て気が引き締まったもんな」なんて納得する方もいらっしゃるかもしれないが、そのようなプラスを帳消しにしてしまうほどの弊害があることも忘れてはいけない。

 それは、パニックになった人々が医療現場や保健所に押しかけてしまうという弊害である。