とある美術教師による初著書にもかかわらず、各界のオピニオンリーダーらやメディアから絶賛され、発売3ヵ月で5万部超という異例のヒット作となった『13歳からのアート思考』。先行きが不透明な時代だからこそ知っておきたい「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、「自分なりの答え」を生み出す思考法とは? 同書より一部を抜粋してお届けする。

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世の中を騒がせた問題作

前回の記事では、「最も影響を与えた20世紀のアート作品」の第1位にも選ばれたマルセル・デュシャンの《泉》というアート作品をご紹介しました。

「作品」とは言っても、《泉》はただの「男性用の小便器」です。しかも、デュシャンがこれを「つくった」わけでもありません。街中のトイレに設置されているようなありふれた便器を選んできて、端っこにサインをし、《泉》というタイトルをつけた――ただそれだけです。

※参考記事
「最も影響を与えた20世紀アート作品」第2位はピカソ《アビニヨンの娘たち》。では第1位は…?
https://diamond.jp/articles/-/236566

デュシャンは確信犯的なやり方で、この問題作を世に出しました。

《泉》を発表した30歳当時、デュシャンはすでにアーティストとして一定の評価を得ており、ニューヨークでのある展覧会の実行委員にもなっていました。それは6ドルの出品料さえ払えば、誰でも無審査で作品を展示できると謳う公募展でした。

デュシャンはそこに目をつけ、《泉》を出品することにしたのです。

ただし、デュシャンは実行委員だったので、偽名を使うことにしました。「委員の作品だ」という色眼鏡を通してではなく、公正な目で作品が判断されることを望んだからです。作品に「R. MUTT(R・マット)」というサインが書かれているのには、このような背景がありました。