ある日、Aさんは勤務中、スマホで将棋漫画を読んでいて「久しぶりに自分もやってみようか」とふと思い立った。Aさんの腕前は「一応コマの動かし方は知っていて、戦法も“穴熊囲い”だけは知っている。親戚とやれば勝つことも負けることもある」程度の、すがすがしいほどの素人であった。なぜAさんが将棋を選んだのかについては「平和なボードゲームで、パソコンかスマホでできるし、暇潰しには持ってこいだと思った」からだそうである。

 CPU相手に指すのは物足りなく感じたので、ネット対戦に手を出した。これがドはまりした。

「最初、結構ボコボコにされて全然面白くなかった。負け続けるうちにマッチングする相手のレベルが自分と同程度の弱い人になって、その時は接戦で勝てることもあってものすごくうれしかった」(Aさん)

 頑なに穴熊一本で戦うAさんだったが、戦績は極めて不安定であった。そもそも穴熊だって囲いの形を知っているだけで、どう生かせばいいのかを理解していたわけではなかった。

 一度勝ちの味を覚えると次の敗北が一層悔しくなる。穴熊オンリーの自分に限界を見たAさんは『これはしっかり定石や他の戦法を勉強しなければ』と決意し、勤務時間中の多くが将棋の勉強に割かれた。そして夜にやってくる自分の時間にネットで実戦に臨む。ほんの少し勉強しただけでうそのように勝てるようになり、将棋が面白くて仕方がない。Aさんの脳内ではアドレナリンが大量放出されてさながら桃源郷の心地である。

 しかし、勝ち続けていくとレートが上がって、ひとつレベルが上の相手とマッチングするようになる。そこでAさんは、その付け焼刃の実力がやはり上位には通用しないことを思い知らされた。臓腑(ぞうふ)が煮えたぎるほど悔しかった。

「素人がその場の閃きに頼って指すのには限界があるな、と。定石を一通り学んで、その上で自分の戦い方を築き上げていかなければいけないと。勉強することが膨大にあるが、勝つためなら長い年月をかけてでもぜひ一丁やってやろうじゃないかと。

 今は将棋で少しでも強くなることが人生の目標」(Aさん)

 Aさんは暇なテレワーク中に、生涯の趣味になりそうな将棋と出合うことができた。仕事への価値観に関連していえば、将棋に情熱が傾けられた分、もともとたいして持ち合わせていなかった仕事へのギラギラ感が一層薄れた形である。

今できないから先への希望が募る
「2年先まで遊びの予定が決まった」

「出社して働くよりかはテレワークが若干、暇」なBさん(37歳)は独身で、普段は若手の独身部下たちとよく集まってインドア・アウトドア問わず遊んでいた。テレワーク中、部下から「今度これをやりにいきましょう」と、某県で山小屋を作るツアーのURLが送られてきて、「これは面白そうだ!」とBさんは大変興奮した。