コンテンツに時間をかけることが、ユーザーの離脱を減らす

「そもそも奈須さんが、2016年に人類が終わるという状況にユーザーを実際に巻き込みたいと話していたんです。1つの場所にリアルタイムに集うソーシャルゲームはそれまでなかったので、一部のユーザーでレイドイベントのテストを行うなど準備を重ねて年末を迎えました。いわばこのゴールに向かって、制作チーム一同がむしゃらに突き進んでいました」(石倉さん)

ディライトワークスの石倉正啓さん

 この終章をもって、約145万字もある壮大な第1部は終幕を迎えた。しかし、ユーザーと制作サイドの一体感は最高潮に達していたため、そこでゲームとしての使命を終えることなく、1.5部を経て第2部の開始が宣言された。現在は第2部が進行中で、現在第5章まで配信されている。年に2章がリリースされるというゆっくりしたスパンで進んでいる。

 その代わり、新しいシナリオの配信を待つ間も、ゲーム内でさまざまなイベントが開催されることに加え、先に紹介したとおり第1部 第七章のTVアニメ化と、第六章の映画化が実施されるほか、AbemaTVやニコニコ動画で関連番組の配信、ラジオ番組の放送がされるなど、ユーザーからしてみればさまざまな場面で日常的にFGOに触れることができている。ユーザーを飽きさせないきめ細やかな運営はサブスクリプションや課金型メディアには不可欠だが、やきもきするライトなユーザーにおもねって拙速な施策に走ることなく、コンテンツの核になる「シナリオ」に時間をかけ、熱心なファンを裏切らない姿勢が徹底されている

 ユーザーとの一貫した関係性を象徴する、こんなエピソードがある。FGOの戦闘シーンは配信開始当時から基本的に変わっておらず、プレイヤーによっては冗長に感じる部分がどうしてもあった。そこで開発サイドは、ユーザーの意見を反映し戦闘シーンで倍速モードを選べるようにする改修を行った。

宝具シーン。このあと、宝具シーン2宝具シーン3と続く

 それでも、戦闘シーンをスムーズにこなしたいという意見は根強く存在している。特に、新規ユーザーが増えるにつれて、何度も話題になる「スキップして早く次のストーリーに進みたいというプレイヤー」の存在は、開発サイドもよくわかっている。しかし、キャラクターの一番の見せ場である宝具シーン(必殺技を繰り出すシーン)は、いまでもスキップすることができない。

「ゲームによくあるオートモードを導入することによって何が起きるかっていうと、ゲームに対してのエンゲージメントが薄まるんですよね。『FGO』の世界を崩すような機能改修はしたくない。『Fate』は、そもそもマスターとサーヴァントで戦うゲーム。マスターの指示がオートになってしまったら、マスターはいらない。そういった『Fate』の世界観を壊すような改修は今後も僕らはやってくつもりはありません」(石倉さん)

 制作プロセスとしては、全体監修を行う奈須きのこ氏を中心として、メインシナリオを執筆するライターのほか、ニトロプラスの虚淵玄や推理作家の円居挽などの外部作家も執筆に参加している。彼らライターチームが全体のプロットを書き上げて、そこからキャラクターや音楽、イベントなどの開発がスタートする。

「毎週、3社で集まるミーティングがあり、シナリオに合わせて開発や配信、宣伝などのスケジュールについて合意を取ります。それ以外に2週間に一度、奈須さんを交えた企画会議もある。これを5年も続けてきました。最初にシナリオありきで、そこからキャラクターの動きを含めて一から作るので、膨大な作業量です。現在、ディライトワークスだけで300人近くのスタッフがFGOに関わっています」(石倉さん)

 こうして、制作チームが一丸となって、物語と、これまで育て上げてきたキャラクターという資産(アセット)をベースに、新しいストーリー、キャラクターに命を吹き込んでいく。このように“物語ドリブン”なゲームだからこそ、多くのファンを世界観に没入させることができる。長く続けているプレイヤーは多く、実際、リアルイベントを開けば3万5000人のユーザーが集結するほどだ(3周年イベントでの動員数。このイベントは、昼2日、夜1日の3部構成で開催された)。

2019年8月に開催された”Fate/Grand Order Fes. 2019 ~カルデアパーク~”の様子

最新情報はリアルイベントで――タッチポイントをユーザーの側に寄せていく

 FGOからはさまざまな派生作品やプロジェクトが生まれている。先に挙げたアニメもそうだが、FGO PROJECTはファンと触れ合えるリアルイベントを非常に大事にしているという。たとえばSCRAP(スクラップ)が手がけるリアル脱出ゲームとのコラボイベントや、カフェなど、リアルなイベントも多い。

 FGOの広報戦略はユニークで、映画化など大事なプロジェクトの発表の多くは、リアルイベントで最初に発表するようにしている。リアルな場に集まってくれるファンこそが最もエンゲージメントの高いユーザーだと知っているからだ。最初に、彼らに伝えていく。ここに、「コアユーザーファースト」の姿勢が最もよく現れていると言えるだろう。

「開発者って基本的に、365日、家と会社の往復で開発している。すると、ダウンロード数がいくらだとか、ランキング1位だとかっていう数値にそれほど現実味を感じないんですね。お客様の顔が見えない。だから弊社はなるべくスタッフにも業務時間の範囲内でイベントに顔を出してもらい、熱量を肌で感じてもらって、お客様に喜んでいただくにはどうすればいいか考えてもらうようにしています」(石倉さん)

「アニメーションを作っている弊社としても重要で、昨年開催した4周年イベントで初公開した周年アニメPVや、第七章のテレビアニメ化と第六章の劇場アニメ化を発表した際には、制作に携わるスタッフの方にもその場に来場いただいて、そのときのお客様の熱量、歓声の大きさを体感していただき、その後のSNSでの情報拡散の勢いに感動していました」(金沢さん)

Fate/Grand Order×リアル脱出ゲーム「謎特異点Ⅱ ピラミッドからの脱出」の様子

 面白いものを作るためには、当然作っている人が楽しんでいなければならない。たとえば、アパレルメーカーであれば、社員はスタッフ割や家族割などで自社商品を安く手にすることもあるかと思う。しかし、FGOの場合はスタッフだからといって割引や無料で聖晶石が手に入るなどの特典は一切ない。中心にいる奈須きのこ氏でさえ、自らがガチャを回している様子がブログなどで確認できる。ゲームを作っている制作サイドこそが、もっともエンゲージの強いユーザーなのである。だからこそ、自分たちが楽しめないものを作らない、というスタンスが守られているのだ

「昨年の4周年イベントで新サーヴァント7騎の実装や、聖晶石召喚の実質的な値下げなどの発表をしたんです。すると弊社のディレクターのカノウヨシキがTwitterのトレンド入りしまして(笑)。いち一般人の開発者が、これほど注目されるんだって思いました。僕らはTwitterで『10万RTで聖晶石プレゼント』などのキャンペーンを行っており、ある程度KPI的なものはあるのですが、やはり数字には見えないユーザーの皆さまの盛り上がりを見ると、楽しんでくださっているんだなという実感があります」(石倉さん)