コミュニティメディアのつくり方#クラシコム

オンラインサロンがもてはやされ、大手メディアもサブスクリプションの採用を始めるなど、現在、メディアの世界には大きな変化の波が押し寄せています。しかしその一方で、読者をつなぎとめておくための日々の運用に疲弊しているメディアも多いのではないでしょうか。一方通行の情報発信メディアから、読者コミュニティとともに成長する双方向型のメディアのあり方を「コミュニティメディア」と名付け、取材していく本連載。『ローカルメディアのつくりかたなどで知られる編集者の影山裕樹さんがレポートします。前回まで、既存の出版社がコミュニティとつながる様をレポートしてきましたが、今回取り上げるのは月間1600万PVを誇るECサイト「北欧、暮らしの道具店」。実は同サイトを運営するクラシコムは、読者に向けたコンテンツ制作にも精力的で、記事のみならずリトルプレスやラジオ、ドラマなども手掛けているといいます。いったいなぜ、そこまでやるのでしょうか。代表の青木耕平さんのお話から見えてきた、メディアと読者コミュニティの本当の関係とは。

モノだけでなくライフスタイルを提供する“ECメディア”

 ウェブの領域において、特に読者との関係を深めているメディアとしてまっさきに挙げられるのが、月間1600万PVを誇るECメディア「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムだろう。「北欧、暮らしの道具店」が多くのファンを惹きつける理由はなんだろうか。東京都国立市にあるオフィスにて、代表の青木耕平さんに話を伺った。

クラシコム代表の青木耕平さん

 クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」は、当初は北欧ビンテージの一点ものの食器などを販売していたが、現在は実に売上の4割がオリジナル商品で占められている。その他、メディアが提供するライフスタイルに関心のあるユーザーを対象とした、企業によるタイアップ記事などが売上の多くを占めているが、通常のECサイトと「北欧、暮らしの道具店」が決定的に違うのは、物販だけでなくライフスタイルを提供しているところだ。青木さんはこう語る。

「それが美味しいジャムの時もあれば、素敵な食器の時もあれば、お洋服の時もあれば、コンテンツの時もある。お客様が『フィットするくらし』だと感じるものであれば、なるべく広く、多くのサービスを提供したいと考えています」(青木さん)

 実際、クラシコムが手掛ける商品の幅は広く、雑貨や衣料だけでなく出版物も多数発行している。「日常のなかに、ひとさじの非日常を」というコンセプトのもと、「KURASHI & Trips PUSBLISHING」というレーベル名で、リトルプレスを発行する他、ラジオ、動画コンテンツの配信まで幅広く手がける。昨年公開した、女優の西田尚美らが出演するオリジナルドラマ「青葉家のテーブル」第1話の再生回数は125万回を超えている。それにしてもECメディアがなぜ動画、それもドラマを手がけようと考えたのだろうか

「これまで映像は『放送』と『配給』しかなかったので、いかに有限の枠を取るか、の競争でした。そうなると当然マスを対象とした作品が儲かるのでニッチなコンテンツの居場所がない。ところが今そこに『配信』というプラットフォームが生まれて、供給が無限に増えた。するとお客さんは書籍や音楽のように無数にあるコンテンツの中から自分に合うものを探すようになる。そこで、僕らのお客さんが好きなスタイルで雑貨や洋服を売るのと同じ感覚で、映像コンテンツを提供することができるのではないか、と考えたんです」(青木さん)

北欧、暮らしの道具店」のユーチューブチャンネル。2019年12月には、オリジナルドラマシリーズ2作目となる『ひとりごとエプロン』が公開された。

長編映画を作る!? クラシコムが考えるコンテンツのあり方

 いわゆるブロックバスター的なコンテンツ、著名人や人気原作にあやかった「儲かるマス向け映画」が氾濫している時代、かつてのミニシアター映画のように、「自分たちにフィットするコンテンツがない」という感覚を持つ人は多いだろう。「北欧、暮らしの道具店」がこれまで培ってきたファンコミュニティにズバリハマるコンテンツが存在すれば、そこに商機はある。実際、「青葉家のテーブル」が好評だったことから、なんと「青葉家のテーブル」の長編映画化を進めているそうだ(2020年秋公開予定)。

長編映画化も決まった「青葉家のテーブル」(クラシコム社プレスリリースより)

「映画って制作費と同じくらい宣伝にお金がかかるんですよ。僕らの場合は、宣伝は自分たちでできる。たとえば予告編を数百万人の人に見てもらうのは僕らにとっては特別難しいことじゃない。今の映画って監督かタイトルにしかファンがつかない。だからシリーズ化したりしますよね。でも、僕らはタイトルの上位概念としての『レーベル』を作っている感覚。このレーベルなんとなく好きだな、と思ってもらえるお客さんが一定数見えているから、タレントのネームバリューに頼る必要もない」(青木さん)

 もちろん、大幅に利益が出なかったとしても、トントンになれば最低でも無料のマーケティングツールになる。顧客のコミュニティがしっかり育ってきているからこそ、一見ECと結びつかないようなコンテンツ――それも、コンテンツの王道である映画――をつくることに必然性が出てくるわけだ。

「映像のレーベルでは、海外から映画を買い付けをして、配給もやろうと考えています。お店と一緒で、オリジナルから始めちゃダメなんですよね。映像はオリジナルから始めちゃいましたが(笑)。そもそも『北欧、暮らしの道具店』も、まずは自分たちがこれだと思うものを仕入れるところから始まったのを思い出しました」(青木さん)