コミュニティメディアのつくりかた

オンラインサロンがもてはやされ、大手メディアもサブスクリプションの採用を始めるなど、現在、メディアの世界には大きな変化の波が押し寄せています。しかしその一方で、読者をつなぎとめておくための日々の運用に疲弊しているメディアも多いのではないでしょうか。一方通行の情報発信メディアから、読者コミュニティとともに成長する双方向型のメディアのあり方を「コミュニティメディア」と名付け、取材していく本連載。『ローカルメディアのつくりかた』などで知られる編集者の影山裕樹さんがレポートします。今回取り上げるのは、日本全国の農家・漁師から、直接食材を購入できるスマホアプリ「ポケットマルシェ」。生産者自ら情報発信し、消費者とコミュニケーションを行う異色のプラットフォームから見えた古くて新しい“つながり”から、メディアの原点、そして未来を紐解きます。

生産者と消費者の関係を結び直すスマホアプリ

 ポケットマルシェ(以下、ポケマル)とは、全国の農家・漁師から、直接食材を購入することができるスマホアプリだ。生産者自身が収穫した直後にスマホで出品できるという手軽さもあり、リリースから3年半がたった現在、出品者は全国で約2000人までになった。iPhone、Androidの両方でリリースされていて、「ポケットの中のマルシェ(市場)」をまさに体現している。

 旬の食材が欲しい時にすぐ買えるという手軽さが売りのポケマルは、出品する側だけでなく、購入者にとってもメリットが大きい。しかし、ポケマルがその他のC to Cサービス(Consumer to Consumer、消費者間取引)と違って特徴的なのは、クリックして買い物するだけで終わらせるのでなく、むしろ農家・漁師と会話しながら、消費者と生産者が“つながる”ことを推奨している点だ

 ご存じの方も多いと思うが、株式会社ポケットマルシェ代表取締役CEOの高橋博之さんは、かつて『東北食べる通信』という“食材付きの雑誌”を生み出した張本人。「世直しは食直し」の旗を掲げ、東北を皮切りに全国で36、海外含めると41の地域に根差した『食べる通信』が生まれ、「日本食べる通信リーグ」というネットワークを形成している。『食べる通信』の理念は、既存の食の流通によって分断された生産者と消費者の関係を結び直すこと。読者は雑誌を読んで生産者のストーリーに共感し、なかには現地まで訪れて、家族のように付き合っている人たちもいる。「食べる通信」を運営するなかで、高橋さんは「関係人口」という言葉を生み出し、その普及に一役を買った人物でもある。

『東北食べる通信』ホームページより

「僕が暮らす東京と岩手って、頭と体の関係に似てると思うんです。頭と体で1人の人間だし、都会と田舎で人間の生活が成り立っている。それが今は頭でっかちになった人が多くて、大きくなった頭を支える体がヨタヨタしている。だから、僕はよく都会の人も時々田舎に行けって言っているけど、逆も大事で、田舎の人も時々都会に来ていいと思うんですよ。1人の人間の人生の中に、おそらく両方の要素が必要。都会にも来て、田舎にも行く。そんな人たちの橋渡しをしたい」(高橋さん)

『食べる通信』だけでなくポケットマルシェが必要だった理由

『食べる通信』の仕組みを簡単に紹介すると、自分が応援したい地域の食べる通信を定期購読することで、月に1回(東北以外は隔月や季刊)その地域の雑誌と食材のセットで届く。各所で会員の上限が決まっており、会員は生産者も所属する非公開のFacebookグループに招待される。そこでは、「昨日、食材をこうやって調理してみました」などの投稿を起点にコミュニケーションが始まり、その先に現地を訪れてのリアルな交流が生まれる。これはまぎれもなくメディアを起点としたコミュニティと言えるもので、「食べる通信」こそ“コミュニティメディア”の先駆けだと言えるかもしれない

ポケットマルシェ代表取締役CEO高橋博之さん

「僕は『食べる通信』はお見合いの雑誌だと思っています。気に入った人がいたら“結婚”してください、と。そこで“結婚”してくれた読者の方には個別に生産者から定期便を送るサービスを運用していました。僕が編集長を務めていた『東北食べる通信』からも6、7つの定期的に食材を買うグループが生まれた。でも、それは本当に幸福な事例であって、もっと気軽に、1回でもいいから試しに生産者から直接買うという体験をしてみたいという声も多かった。それでアプリを立ち上げたんです」(高橋さん)

 高橋さんが言う“結婚”とは本当の意味での結婚ではないが、ある意味、継続的に交流を続けるコミュニティを象徴する言葉としては言い得て妙である。それくらい、“結婚”という言葉には重みがある。しかし、そこまで深く関わりを持たなくても、「ちょっとだけ関わってみたい」「一度だけ試してみたい」という人も多いはずだ。そんなライトなユーザー層を取り込み、分断された生産者と消費者の関係をつなぎ直す、という理念をさらに押し広げるために、アプリという選択肢は自然だったわけだ