コミュニティメディアのつくりかた#05

オンラインサロンがもてはやされ、大手メディアもサブスクリプションの採用を始めるなど、現在、メディアの世界には大きな変化の波が押し寄せています。しかしその一方で、読者をつなぎとめておくための日々の運用に疲弊しているメディアも多いのではないでしょうか。一方通行の情報発信メディアから、読者コミュニティとともに成長する双方向型のメディアのあり方を「コミュニティメディア」と名付け、取材していく本連載。『ローカルメディアのつくりかた』などで知られる編集者の影山裕樹さんがレポートします。今回取り上げるのは、新しい視点で物件の魅力を発掘する「R不動産」、そしてそこから派生した「リアルローカル」や「公共R不動産」などのメディア・コミュニティ。物件から、街やそこで暮らす人、そして公園などの公共空間まで、幅広い対象を“編集”する彼らの実態に迫ります。

R不動産が織りなす多様なコミュニティ

 立地やアクセス、築年数などにかかわらず、物件そのものの魅力を新しい視点で発掘し紹介していく“不動産のセレクトショップ”R不動産。東京R不動産を皮切りに、神戸R不動産、大阪R不動産など全国に10のR不動産が誕生、運営されている。なかには地域に根差したものでなく、公共空間の利活用を目的とした「公共R不動産」、全国の団地の魅力を紹介する「団地R不動産」なんていうサイトまで存在するから面白い。

 R不動産の物件の紹介の仕方は特徴的だ。「公園のようなシェアオフィス」「神田川沿いで小商い」「ポテンシャルしかない土地」など、暮らしを想像させるタイトルによって、物件を商品ではなく“コンテンツ”として捉えているところが一番の特徴だろう

 このR不動産は、いわゆる不動産情報のマッチングサービスなどではなく、物件情報を商品ではなくコンテンツにする紛れもない「メディア」である。そして、ローカルとローカルをつなぐウェブマガジン「reallocal(以下、リアルローカル)」公共空間のリノベーションを提案する「公共R不動産」など、不動産や建築をバックグラウンドにした実践者が集い、複数のメディアやプロジェクトが有機的に生まれる環境が、普通のメディアとは違い全体像をつかみづらくし、だからこそ刺激的に見えるところだろう。

 そもそも、全国のR不動産はそれぞれ運営元のバリエーションが豊富だ。東京R不動産は馬場正尊さん率いる建築設計事務所Open A(オープン・エー)と、林厚見さんと吉里裕也さんが代表を務めるSPEAC(スピーク)が、神戸R不動産は神戸市でエリアディベロップメントを行う有限会社Lusie(ルーシー)が、山形R不動産は山形市にあるNPO法人 環境デザイン会議が、といった具合に。それぞれ本業をこなす傍ら、物件仲介サイトとしてのR不動産を運営している。

マッチングサイトではなく「メディア」としてのR不動産

 R不動産の立ち上げの経緯について、東京R不動産のディレクターで、SPEAC共同代表の吉里裕也さんはこう語る。

吉里裕也さん

自分たちが欲しい物件を、友達に届けいたというシンプルな思いからスタートしました。現実的には僕らがオフィスを探していくなかで、なかなかいい物件が見つからなかったというのが大きい。見つからないどころか、不動産屋さんとのコミュニケーションが成立しない(笑)。別に駅から徒歩何分かとか、築年数がどうとかって重要じゃないんですよ。そういうことで選びたいわけじゃない」(吉里さん)

 自分たちと同じように、不動産市場の価値基準からすると漏れてしまう、空気感だとか間取り、暮らしのストーリーを大事にする人々が一定数いるはずだと考えた。実際、吉里さんたちの周りには、自然と同じ価値観を持つ仲間が集いはじめ、紹介すると驚くほどすぐに借り手が見つかり、手応えを感じたという。

「物件のチラシを見て、ここにベッドを置こうとか、テレビを置こうとか妄想するじゃないですか。そういう妄想を手助けするようなサイトになればいいよねって。メディアを意識したのはそのあたりからかもしれません。既存の不動産仲介業に対するアンチテーゼ。物件のタイトルに築年数とか駅からの距離を入れなかったり、面積の広さで検索できなかったり。エリア検索もできません」(吉里さん)

「あの頃の団地」とか、「多趣味さんいらっしゃい」とか、暮らしを妄想させるタイトル。しかも、それだけではなく、ページの文章自体がしっかりと練られて、「編集」されている。だから、借りるつもりがなくても見ているだけで楽しい。前回紹介した「北欧、暮らしの道具店」のように、商品ページそのものが“読み物”になっているのである

東京R不動産の物件紹介ページ。暮らしを妄想させるタイトルに、読み応えある紹介文が続く