これまでのように、その場の空気や暗黙の了解に頼ることができない。言葉にできない背景や文脈を、相手に察してもらうことも難しい。
実はこれは、日本人がグローバルを相手にビジネスをする際の、作法や進め方に共通する課題である。日本流の進め方、つまりそんたくや、あうんの呼吸を大事にしたプロセスが通用しないからだ。
現在、日本人の英語力向上とグローバル・リーダーの育成に携わる著者が、米国の大学やハーバード・ビジネス・スクールで学び、総合商社で丁々発止のビジネスを行ってきた経験を踏まえて、昨今のリモートワーク/オンライン会議とグローバル・コミュニケーションに共通する、日本人ならではの課題を指摘する。問題は英語力ではない。『グローバル・モード』に切り替えることができるかだ。
オンラインでは、日本的なローカルルールが通用しなくなる
オンライン会議はいまやすっかり、日常的な手段となりつつあります。しかし、本当に実のある会議ができているでしょうか?
画面越しでは、相手の細かな表情がわからず、音声も聞き取りづらいですし、同時に話せないので丁々発止のやり取りが難しく、これまでの対面での会議に比べて、より一方的な情報伝達になりがちではないでしょうか。
このオンラインでの話しにくさは世界共通なのですが、とりわけ日本人にとって打撃が大きいのは確かです。なぜなら、日本のコミュニケーションには、「高文脈」という特色があるからです。
詳細は拙書『グローバル・モード』に譲りますが、大雑把に言ってしまえば、「文脈」とは会話における「暗黙の了解」のことで、高文脈であればあるほど、いちいち言葉に出さなくても通じる部分が大きくなります。「空気を読む」「あうんの呼吸」「一を聞いて十を知る」といった慣用句があるのも、いかにも日本人らしいのではないでしょうか。
相手の話す言葉以外にも、表情のかすかな変化、声色、微妙な間の取り方など、さまざまな「サイン」を受け取って理解してきたわけです。残念ながら、それらの微弱なサインはオンラインでそぎ落とされがちです。意思の疎通が不十分なままお互いの作業が進んでしまうと、気づいた時には大きな食い違いに発展してしまいかねません。「話し手が放ったあいまいで少ない情報を、聞き手が高い察知能力で理解する」という高文脈のコミュニケーションスタイルには、もう頼れないということです。
では、低文脈のコミュニケーションとはどのようなものでしょうか。
まず、基本的な心得として、話し手はきちんとわかるように説明する責任、聞き手はきっちり確認する責任を果たすことです。低文脈コミュニケーションで大切なことはいくつかあり、この連載で追ってご紹介していきますが、とりわけ大事なのものとして、「うなずき」があります。
低文脈のコミュニケーションは、「確認し合う」スタイルです。話し手は、相手がわかるように説明する。聞き手は、相手からの情報を正しく理解できているかを明らかする。「そこはわかった」「そこはわからない」「この理解で合っているか?」と、逐一確認しながら話を進めていきます。
高文脈に馴染んだ私たちからしたら、まどろっこしく感じるかもしれませんが、情報伝達の事故を起こさないためにも、おそろかにしてはいけない重要なポイントです。
ちなみに、現在、英会話学校を運営していますが、私たちの授業で徹底的に行うのが、この「確認し合う」スキルです。相手を止めて、質問し、自分の言葉で言い直すという練習なのですが、日本では相手の話を遮ることが失礼だとされているため、皆さんなかなか苦労されるようです。よろしければ次のオンライン会議の際、自分がどれだけうなずいているか確かめてみてください(思いのほか、少なかったりしますよ)。
そして、この確認し合うことの第一歩が、「うなずく」ことです。ちょっと顔を動かす程度ではなく、オンラインの画面越しでもはっきりと見えるよう、大きくうなずいてください。特にオンラインでは、話し手はきちんと音声が届いているかが不安になるものです。話を理解しているかだけでなく、きちんと聞こえているという、しるしにもなるのです。