PMIを成功させる
たった一つのこと

岡田:M&Aの成否を分けるのはPMIといわれますが、それでもPMIでつまずいてしまうケースが後を絶ちません。リクルートでは、PMIのノウハウを組織能力として、どのように蓄積・継承しているのですか。

池内:2000年代の10年間は失敗続きでした。そこで、なぜうまくいかなかったのか、2011年に半年ほどかけて整理してみました。その原因の一つがPMIでした。

 この課題を、どのように解決すべきなのか、具体的な処方箋を6つ考えて、2012年のM&AからPMIのやり方を変えました。それから、成功確率が上がっていきました。

 PMIが失敗する最大の理由は、実は単純です。先ほど申し上げた中国市場への参入では、私が計画担当役員として、現地の市場調査、戦略の立案、20~30社への打診・交渉、最終的なクロージングまでやったのですが、PMIは事業部門のトップに任せました。

 「〇〇さん、来週から上海に行ってくれないかな」と言われれば、うちの社員は意気に感じて引き受けてくれるのですが、うまくいった例がありません。要するに、M&Aの企画立案者とPMIを推進するリーダーが異なるとうまくいかないのです。そのことを身をもって知りました。

 たとえば、1000億円の会社を買収しようとして、プレミアムがついて1400億円になったとしましょう。1400億円支払うとは、企業価値を400億円以上向上させないと、市場からは評価されないということです。これに対して、自分のすべてを賭けて、全身全霊を傾ける覚悟のない人が、戦略や経済合理性だけで判断してしまうと、シナリオ通りに事が進まなかった時、責任の所在が曖昧になったり、逃げ出したい気持ちをぬぐい切れなかったりします。

 クロスボーダーM&Aでは、当初想定していた目標値に短期間で到達することはまずありません。2~3カ月経って、当初の目標に届いていないと、本社から「なぜなのか」を詰問されて、現地の総経理はだんだん焦ってきます。本来ならば、中国のユーザーやクライアント、競争相手を鑑みて判断すべきなのに、本社の顔色をうかがうようになり、そのせいでますますうまくいかなくなる。ついには「これって、誰がつくった数字だっけ」となる。

岡田:我々はM&Aについてアドバイスする立場ですが、たいてい「買収後、この事業はどなたが運営されるのですか」というシンプルな質問を投げかけます。実際の経営者が決まっていないと、アドバイスのしようもありませんし、買収後の運営も危うくなります。

 この質問への答えは、だいたい3つに分かれます。一つは「これまで通り、被買収企業の経営者に任せる」。2つ目は「プラットフォームは買うけれど、経営者はすげ替える」というものです。ただし、この場合は、相当優秀な人材をあらかじめ社内に用意しておく必要があります。そして3つ目が「決まっていない」。困ったことに、こう答える企業が依然として多い。