厚労省も認めない
政権与党と国民感情の優越

 厚労省にとっては、本判決は勝利である。しかし、内容にも納得しているのだろうか。

 判決の翌日である6月26日、本訴訟に関わった弁護士ら、支援団体関係者、もちろん生活保護で暮らす当事者らが、厚労省に申し入れと交渉を行った。問題は、判決だけではない。コロナ禍下で生活保護を必要とする人々が急増しているため、「必要で、経済的に困っていればすぐ使える」という本来の原則どおりに、生活保護を利用できるようにする必要があるからだ。

 このとき、元厚生官僚でもある弁護士の尾藤廣喜氏が「憲法や生活保護法に示されていない、自民党や財務省の意向、国民感情などによって、生活保護費を決定するのですか」と尋ねたところ、厚労省保護課職員からは「法に従って、公平に適正に行います」という当然の回答があったということだ。

 名古屋地裁判決に盛り込まれた「生活保護費は自民党が決める」という内容は、厚労省も認めていないのである。国会での立法や審議を経ずに、自らの役割や存在を司法に変えられてしまうのでは、たまったものではないだろう。

 今回の裁判官は、なぜ、このような「斜め上」の判決を下したのであろうか。

 名古屋地裁判決の背景として考えられることは、数多い。たとえばコロナ禍で、生活保護をはじめとする社会保障を必要とする人が増えている。総額をコントロールするために最も効果的なのは、生活保護費を減らすことだ。

 生活保護費は、他の社会保障制度や最低賃金など、約60にもおよぶ制度の参照基準となっている。生活保護費を減らせば、社会保障費総額は自動的に減らせることとなる。しかし本判決文は、3月末よりも前の時点で完成していたと見られる。コロナ禍を考慮して大胆な変更が加えられた可能性は、あまり考えられない。