鴻海との提携で堺工場の運用には一定のめどが付いたが、今度は亀山第2工場(右側の建物)がシャープの悩みの種。生産能力の高さが仇となり、生産ラインを埋め切れない

「郭台銘(テリー・ゴウ)会長は先ほど、堺工場を離れました」

 紆余曲折を経て、大混乱を招いた鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープ本体への出資問題。出資条件をめぐって、鴻海の郭会長とシャープ側の意見が食い違って騒動に火が付いたが、決着を待つ多くの関係者は、その鍵を握る郭会長にまたもや振り回されるかたちとなった。

 8月30日、渦中の人である郭会長が、シャープと共同運営する堺工場を訪れて記者会見を開くとあって、ついに合意発表かと注目が集まった。日本と台湾を合わせて、総勢100人を超えるメディアが集結。郭会長の登場を待った。

 ところが郭会長は会見場に一度も姿を現すことなく、次の予定のために堺工場を発ったとのアナウンスが響く。場内は騒然となった。

 代わりに現れた鴻海グループの戴正呉副会長は、出資問題について「メディアも含めて周囲からのプレッシャーはすごいが、急いては事を仕損じる」と、決着の時期について明言を避けた。

 週刊ダイヤモンド9月1日号の特集「シャープ非常事態」で報じた通り、鴻海との出資問題は、シャープの経営危機を取り巻く三重苦の一つ。本稿執筆の8月30日時点では、まだ解消されていない。

 しかし、不協和音が鳴り響いていた“救世主”との交渉が一段落しようとしまいと、シャープの経営危機は終わらない。「資金繰りの逼迫」「本業の巨額赤字」という、三重苦の残りの重要課題が迫っているからだ。

 資金繰りに関しては、コマーシャルペーパー約3600億円(6月末時点)を抱え、さらに来年9月にも転換社債の償還で2000億円という巨額の資金が必要。鴻海の出資で手にする予定の数百億円程度の金額では、焼け石に水だ。資金繰りに窮するシャープにとって、銀行が命綱を握るという状況に変わりはない。