「過去の遺物」から状況が一転、
屋台経済がもてはやされる背景
中国に行ったことのある読者なら、街中に屋台が並んでいる光景を一度は目にしたことがあるだろう。筆者が中国での生活を始めた2001年頃も、道に食べ物や雑貨を扱う屋台や物売りが多かった。
中国の都市化が進むにつれ、こうした屋台は街の景観を損ねるなどの理由で取り締まりの対象になり、当局に撤去させられたり、警官と店主が口論したりする光景をよく見かけた。政府の取り締まりが効を奏したのか、今は街の中心部では少なくなった。
だが、状況が一変し、「過去の遺物」と化した屋台が復活しつつある。ネット上では「露天経済」という言葉がよく見られるようになり、最近、中国を悩ませている雇用問題を解決する「切り札」のように見られている。
その一方で、三十数年前の雑然とした街に逆戻りしたという批判的な意見もある。「露店経済」は中国の雇用問題、中国経済を活性化する上で重要な要素なるのだろうか。
「露店経済」が雇用問題の解決の「切り札」的な存在としてクローズアップされた背景には、米中貿易摩擦やコロナ禍によって雇用問題が中国政府の解決すべき重要問題となっていることにある。
中国政府は「就業は民生の本」と位置付けており、一貫して雇用問題を重視している。経済減速の影響を緩和するために、昨年から特に雇用の確保を一層重視するようになった。コロナ禍の影響で開催が2カ月遅れた今年の全人代での「政府活動報告」も、雇用という言葉が38カ所見られた。
報告は「さまざまな措置を講じて雇用を安定させ拡大する」とし、「流動性の高い屋台の経営場所を合理的に設ける」と述べ、「露店経済」についても言及した。