今、中国でにわかに注目を集めているのが、路上で布を広げて商品などを販売する露店である。新型コロナウイルス感染症の影響による経済落ち込みの急回復を担う切り札として、また失業者対策や貧困層対策としても、中国全土で熱い視線が注がれている。(ジャーナリスト 姫田小夏)
李克強の称賛で全土に広がる露店
中国で最近、「露店経済(中国語で「地攤経済」)」が急速に注目を集めている。
夕暮れ時にどこからともなく露店が現れ、路上に大きな夜市が立ち上がる――。都市部では少なくなった光景だが、地面に布を広げて商品を売る露店は、かつては「中国の活力」そのものだった。
露店を出して行う商売は、明日からでも始められるという意味では、ポストコロナの失業者対策にはうってつけだ。先の全国人民代表大会(全人代)で李克強首相は、視察で訪れた四川省成都市や山東省煙台市の取り組み事例を示し称賛した。すると、それを追うようにして上海市や江蘇省南京市、浙江省杭州市、遼寧省大連市など、多くの地方政府がこれをサポートする政策を打ち出し、一気に注目が集まったのだ。
振り返れば、1970~80年代にかけて、中国経済は私営化の道を歩み始め、国家は国民に自活の道を奨励した。1992年、筆者が中国で初めて取材したのは、鍋で煮た卵などの食品や雑貨を売る庶民だった。自由に物を売買する経済は、庶民の経済に活力をもたらした。自宅の軒先を改良するなどして、雑貨や食品などの物品販売からサクセスストーリーを歩んだ人物には、アリババのジャック・マー氏やファーウェイの任正非氏がいる。
ところがその後の中国の目覚ましい発展に伴い、夜市などの露店は邪魔者扱いされるようになった。社会都市の景観を損なう、ゴミで汚れる、イメージが悪いなどの理由から、露店や夜市に対する規制が厳しくなったのである。
市民生活の中心は近代的なスーパーやショッピングモールに取って代わり、昔ながらの露店や夜市は衛生面や信頼性が問題視されるようになった。近年の上海は見違えるようにきれいになったが、これは露店の排除と無関係ではない。
だが、「こうした露店による商売は中国経済の原点であり、ポストコロナにおいては救済策となり得る」というのが李克強首相の考えである。中国には「市場」を生活の基盤とし、今なおこれを必要としている人々がいるのである。