インド、中国、ヨーロッパ、アフリカなど世界中で、靱帯や角膜、心臓、肝臓、腎臓などの臓器、血液、さらには人間本体までが日々売りに出され、買い取られているという。『レッドマーケット 人体部品産業の真実』の著者、スコット・カーニー氏に臓器売買市場の実態を聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)

需要ある限り、闇のビジネスは止まらない<br />世界の人体部品市場「レッドマーケット」の実態<br />――ジャーナリスト スコット・カーニー氏に聞くScott Carney
調査報道を専門とするアメリカ人ジャーナリスト。インドにのべ10年滞在した経験を持ち、テレビ番組やラジオ番組のレポーターも務める。本書『レッドマーケット 人体部品産業の真実』(講談社刊)にも収められた子どもの拉致、売買を扱った報道では2010年にジャーナリズムにおける倫理賞(The Payne Awards for Ethics in Journalism)を受賞している。

――レッドマーケットという言葉は非常におもしろい表現だと思いますが、ブラックマーケット(非合法市場)やホワイトマーケット(合法市場)に対して、もともと存在する言葉ですか。

 いいえ。私は人体が売買される、いろいろな方法を表現する言い方を探していました。単にお金でビジネスをするのではなく、人間にとってもっと重要な、本質的なものが実際に移動しているのです。ドルだけではそういう市場を計算できません。生命そのものの価値を計算しなければなりません。それで、ブラックやホワイトに対してレッドを思いつきました。

――本を読んでいると恐ろしくなってきますが、取材中に脅迫に直面したことはありますか。

 取材の途中で、脅迫を受けるのではないかと心配したときもありました。例えば、カルカッタの裏通りで人骨ディーラーを取材しているときは、かなり危険でした。しかし最終的には、ほとんどの関係者に取材することができました。ただ、驚くべきことは、この人骨ビジネスが実社会でいかにまともなビジネスになっているかです。

 腎臓を買うために誰かを探しているとき、マフィアのところには行きません。医師のところに行きます。白衣を着た医師のところに行きますが、彼ら(臓器売買に携わる医師)は犯罪者です。つまり最悪の犯罪者が、我々が社会でもっとも尊敬している人でもあるのです。これが、レッドマーケットのおそろしいところです。

――そういう医師は闇取引のことを把握してビジネスをしているのでしょうか。