しかし、忙しい週刊誌で年にたった3回の長期休みを、週刊誌の特派記者(フリー)の人に潰させるわけにはいきません。彼らは人事異動がないので、本当に骨休めができないのです。そこで、編集部の若手男性記者数人を集め、「休みはなし。とにかく他社にバレないよう、秘密に取材をせよ」という指示を出しました。

 問題は、この男性をどう扱うか。レンタカーで熊本から東京に出てきたものの、支払い期限ギリギリまで乗って逃げている様子です。レンタカーは結局、編集部の人間がレンタカー店の前まで運転して、店の人にわかる場所に遺棄しました(あとで事情を言って、支払いもしています)。

 本人が「犯人」だと主張していても、まだ「犯人」だと確定していない場合、編集部の法的立場も微妙です。顧問弁護士に相談すると、「テロ以外は犯人を警察に通報する義務はありません。ただ、犯人とわかって金品を渡すと逃亡幇助(ほうじょ)、犯人隠避で逮捕される可能性はあります」とのこと。

迫る期限に焦る編集部
男の話は嘘かまことか?

 現状、犯人と確信しているわけではないのですが、行動は慎重にならざるを得ません。

 そこで、ウィークリーマンションを私が借りました。会社の名前ではまずいので、妻の名義です。あくまでも個人名で借りたとき、貸主が私を上から下まで嘗(な)め回すように見た疑いの視線は、生まれて初めて浴びた視線でした。「ああ、いつもこんな視線を浴びて生きてきた人もいるんだろうなあ。そんな人と自分では人生の運が違うのだ」とつくづく思いました。

 狭いマンションでチームの半分が彼の話を聞き、弁護士一家殺害の仕事を頼んできたという男とどこで出会い、どんな会話をしたか、詳細に聞き取ります。

「本当の名前を知らない男から競艇場で頼まれた」と、男性は言います。その競艇場を編集部が訪れ、そられしき名前の男がいないか、それらしき人相の男がいないか、聞き込みをしました。常に記者の半数が男の話を聞き、残りの半数が男の話の裏をとりました。