新型コロナウイルスのまん延をきっかけに、世界各国の製造業は中国に依存したサプライチェーン(製品供給網)の再構築を迫られている。米国は通商政策の結果、昨年、中国からの輸入を減少させた。日本もコスト削減以上に、防疫、国防、ブロック経済化を視野に入れた供給網の見直しを迫られている。(ジャーナリスト 姫田小夏)
いち早く国内回帰へ
動いた台湾の製造業
サプライチェーン(製品供給網)の再編は、深刻化する米中貿易戦争で重要な検討課題となっていた。これにくさびを打ち込んだのが新型コロナウイルスだ。これまで「米中間の政治マター」ともいわれてきたサプライチェーンの国内回帰の動きだが、グローバル化の後退とともに本格化する気配だ。
中国大陸からのサプライチェーンの移転で、迅速な動きを示したのが台湾だった。2019年、深刻化する米中貿易戦争を背景に、「国内回帰」と「南下政策」の2本立ての政策を打ち出した。国内回帰策といわれる「歓迎台商回台投資行動方案」に基づき、中国で操業している台湾企業を対象にUターン投資を推進した結果、20年7月2日時点で192社、総額で約7763億台湾ドル(約2兆8323億円)の投資が認可された。
その中には世界に冠たる技術を持つ企業もあり、水晶デバイスで世界首位の台湾晶技(TXC)、リニアガイドの生産量で世界屈指の上銀科技(ハイウィン・テクノロジーズ)、半導体のイオン注入装置大手の翔名科技(フィードバックテック)などが、台湾での操業のための準備を着々と進めている。
日本でも昨年、中国からの生産シフトが議論されたが、台湾のような積極的な動きは特に見られなかった。経済産業省の外郭団体である日本立地センターにヒアリングしたところ、「拠点を国内に戻す企業は一部あるものの、国内回帰が潮流になるほどでもない」とし、「海外での事業を継続するのが日本の製造業の傾向」という回答だった。
同年10月5日、日本経済新聞は、日本企業の中国担当者1000人を対象にしたアンケート結果を公表したが、「現状維持で様子見」が約6割を占めていた。筆者も中国駐在者にたずねたところ、「弊社の生産活動は中国市場への供給がメイン」という回答や、「米中の政治マターだから、そのうち元のさやに収まるのではないか」という見方もあった。
新型コロナウイルスの打撃を受ける前までは、インバウンド需要もあり、化粧品メーカーなどを中心に、日本国内での生産拠点を増強する動きも見られた。化粧品は訪日外国人客の間で高まる日本ブランド人気で、前年に品切れが続出したこともあり、国内体制の強化が待たれていた。